ポルナレフが意識を取り戻すまで、簡易的な怪我の処置と移動に必要な乗り物のチャーターをジョセフは行っていた。
元々身体が丈夫なのか、ポルナレフは数十分で目を覚ます。
目覚めたそこは船着場付近であり、そして目の前で海に浮いている大きな船を、ジョセフはじっと見つめる。

「チャーターしたのはあの船だ。我々の他は乗組員だけだ。他に乗客は乗せない」

もし事故があるとまずいからな、とジョセフは続けた。
確かに自分達は狙われていて、そしてなまえに言わせればジョセフと一緒に行動しているのだから、飛行機は命がいくつあっても足りないだろうと承太郎たちは納得した。
ふと、ここまでずっと何か考えていたようなポルナレフがジョセフを見ながら静かに口を開く。

「ムッシュジョースター。ものすごく奇妙な質問をさせていただきたい」

「奇妙な質問?」

船へ乗り込もうと先を歩く承太郎たちの後ろで、ジョセフがポルナレフの質問に首を傾げた。
ポルナレフはそんなジョセフを見て、少しだけ考えるように黙ってから、言葉を選ぶように零していく。

「………詮索するようだが、あなたは食事中も手袋を外さない…まさかあなたの『左』腕は『右』腕ではあるまいな?」

「………?『左』腕が『右』腕。左が右?たしかに奇妙な質問じゃ…」

なまえは、ジョセフの左手を見つめる。
指先から手首にかけて、手袋が覆っているその左腕。
孫である承太郎も、友人であるアヴドゥルも、そして花京院もなまえもその手袋の下を知っていた。

「一体どういうことかな?」

ジョセフはすぐには答えず、何故その質問をしたのかをポルナレフへ問う。
その質問にポルナレフは戸惑うことなく、すぐさま答えを口にした。

「妹を殺した男を探している。顔はわからない。だが、そいつの腕は両腕とも右腕なのだ」

「………………」

ポルナレフも言葉に、先を歩いていた承太郎たちも振り返ってポルナレフを見つめる。
真剣な瞳の奥で、憎悪と殺意が確かな存在を持っていることを、なまえは感じ取った。
そしてそれをジョセフも感じ取ったのか、静かに左手を顔の前へ持っていく。

「50年前の闘いによる、名誉の負傷じゃ」

キラリ、と日の光をその光は反射する。
ジョセフが指を軽く動かせば、人の音ではないそれが鳴り、ポルナレフは少しだけ驚いたように目を見開いた。

「………失礼な詮索であった。許してくれ」

ポルナレフは申し訳ないといったように頭を軽く下げ、そんなポルナレフに対しジョセフは気にするなとでもいうように首を横に振る。
そして、ポルナレフはくるりとジョセフ達に背を向けて話し始めた。
3年前、自分の妹が辱めを受け殺されたこと。
奇跡的に命を取り留めた妹の友人の証言から、そいつは両腕とも右腕の男だということ。
そして―――その男を探すために、DIOの仲間になったことを。

「そして君らを殺してこいと命令された。それが正しいことと信じた……」

「肉の芽のせいもあるが、なんて人の心の隙間に忍び込むのがうまいヤツなんだ」

「うむ…しかし、話から推理するとどーやらDIOはその両手とも右腕の男を探し出して仲間にしているな」

「おれはあんたたちと共にエジプトに行くことに決めたぜ。DIOを目指して行けば、きっと妹のかたきに出会えるッ!」

アヴドゥルと花京院の考えを聞いているのかいないのか、ポルナレフはジョセフ達へそう言い放った。
ジョセフはそんなポルナレフを見て黙りこむが、突然、ポルナレフはなまえへ物凄いスピードで近寄ってその手を両手で優しく包み込む。

「!?」

「なまえ、だっけ?いやー、まさか東洋の女の子がこんなに清楚で可憐だとはね!DIOが気にかけるのもわかる気がするぜ!」

「あー…えっと、」

「ポルナレフ。その手を離しやがれ」

驚いたなまえが一歩下がろうと手を引くものの、ポルナレフの手ががっしりとなまえの手を掴んでいるためそれすらも出来ない。
しかしそんななまえのこともお構い無しに、ポルナレフは先ほどの真剣さが嘘のようにデレデレと笑っていた。
そんなポルナレフに困惑するなまえに助け舟を出したのは、呆れるように溜息をついた承太郎である。

「なんか…わからぬ性格のようだな」

「ずいぶん、気分の転換が早いな」

「……というより頭と下半身がハッキリ分離しているというか」

「やれやれだぜ」

承太郎に言われ渋々なまえの手を離したポルナレフに、アヴドゥル達が次々にポルナレフへの感想を零していった。

「だがその様子だと、ポルナレフもDIOがなまえに目をつける理由を知らんようだな…」

アヴドゥルのその呟きに、承太郎は一度アヴドゥルをチラリとだけ見て再び船の方へ顔を向ける。
ポルナレフに一応訊いてみたものの、「手紙を渡せ」と言われただけで何も知らない、と首を横に振った。
もしかしたら手紙に何か情報があったかもしれないが、それを見ても自分達がそれを信じるかどうかはわからない。
そんなものに悩まされるくらいなら、あそこで燃やした判断は正しかっただろうと誰も何も言わなかった。

「そうだ、なまえ。そう言えばお前もスタンド使いなんだろう?一体どんな手を使って手紙を手に入れたんだよ」

「え?あー…」

ポルナレフが先ほどのことを思い出したのか、なまえへ灰になった手紙について質問する。
どうしたものかとなまえは首を傾げ、そのまま静かに承太郎たちへ説明したように自分のスタンド能力を説明した。
なまえの説明が簡略的なものであったのが甲を制したようで、ポルナレフはすぐに理解したとでもいうようになまえへ笑顔を向ける。

「戦闘タイプじゃない…か。なら尚更、おれを頼ってくれていいんだぜ?」

「ポルナレフ。それ以上言うなら船の後を泳いでついてきてもらうことになるが」

「え、あ、じょ、冗談だよ冗談!ったく、みんなして怖ぇっつーの!」

なまえへ笑顔で両腕を広げたポルナレフの背後からの花京院の鋭い視線に、ポルナレフは焦ったように両手を横に振って冗談だとアピールする。
そんなポルナレフに呆れるものの、船をあまり待たせてもいられないと6人は素早く乗船した。


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