ボブシュウゥゥゥ、と、ポルナレフのスタンドが燃えていく。
それを見た承太郎たちが、ポルナレフに半分背を向けながら口を開いた。

「アヴドゥルの『クロスファイヤーハリケーン』。恐るべき威力!まともにくらったやつのスタンドはバラバラでしかも溶解して、もう終わりだ…」

「ひでーヤケドだ。こいつは死んだな。運が良くて重傷だな…いや運が悪けりゃかな…」

「どっちみち…3か月は立ち上がれんだろ…スタンドもボロボロで戦闘は不可能!さあ!ジョースターさん。われわれは飛行機には乗れぬ身…エジプトへの旅をいそごうでは、ないか」

アヴドゥルもポルナレフへ背を向け、ジョセフたちもアヴドゥルへ続いてこの場から去ろうと踵を返して。
しかし、なまえはじっと、岩陰から顔を出してポルナレフを見つめていた。

「どうしたんじゃなまえ。早く行くぞ」

そう、ジョセフがなまえを振り返った瞬間だった。
何かが破裂するような、爆発するような音と同時、ポルナレフのスタンドである銀の戦車シルバーチャリオッツが唐突に動き出す。
その音に、アヴドゥルたちは驚き、勢い良く振り返った。

「な…なんだ…やつのスタンドがバラバラに分解したぞ!」

「なッ!?」

ジョセフの声と共に、ポルナレフの身体が寝たままの姿勢で勢い良く空へ飛ぶ。
そして、ポルナレフはパチリと目を開いた。
その姿勢のまま、両手をパチパチと鳴らし、アヴドゥル達へ拍手を送る。

「ブラボー!おお…ブラボー!」

「こ…こいつはッ!」

「ピンピンしている…」

「火傷もよく見るとほとんど軽傷だ…しかし、やつの体がなぜ宙に浮くんだ!?」

「フフフ…感覚の目でよーく見てろ」

承太郎の質問に笑顔で答えるポルナレフ。
その下を、なまえたちは凝視する。
すると、うっすらとポルナレフのスタンドである銀の戦車シルバーチャリオッツが視界に入った。
それはポルナレフの身体を持ち上げており、それにアヴドゥルたちが気付いた瞬間、クルクルと宙返りをし、ポルナレフは綺麗に地面へ着地する。
そして。

「これだ!甲冑をはずしたスタンド、『銀の戦車シルバーチャリオッツ』!」

着地したポルナレフの前に、先程よりもスマートになった銀の戦車シルバーチャリオッツが君臨した。
その切っ先は相変わらずアヴドゥルへ向けられており、ポルナレフは勝ち誇った笑みをアヴドゥルへ向ける。

「呆気に取られているようだが、わたしの持ってる能力を説明せずに、これから君を始末するのは騎士道に恥じる。闇討ちにも等しい行為。どういうことか…説明する時間をいただけるかな」

「…畏れ入る。説明していただこう」

ポルナレフの騎士道精神に応えるように、アヴドゥルは軽く頭を下げる。
互いに敬意を払っているのが、その一瞬で垣間見えた。

「スタンドはさっき分解して消えたのではない。わたしのスタンドには『防御甲冑』がついていた。今、脱ぎ去ったのはそれだ。君の炎に焼かれたのは甲冑の部分………だからわたしは軽傷で済んだのだ」

「………………」

「そして、甲冑を脱ぎ捨てた分、身軽になった。わたしを持ち上げた『スタンド』の動きが君は見えたかね?それほどのスピードで動けるようになったのだ!」

「なまえ。お前さん、あの動きが見えたか?」

「………全く」

ジョセフの言葉に、なまえは真剣な表情のまま首を横に振る。
ポルナレフに背を向けずじっとポルナレフを見つめていたにも関わらず、なまえに銀の戦車シルバーチャリオッツのスピードは認識出来なかった。
それはジョセフたちも同じらしく、アヴドゥルの額にも冷や汗が浮かぶ。

「なるほど。先ほどは甲冑の重さゆえわたしのクロスファイヤーハリケーンをくらったということか…しかし、逆にもう今は裸…プロテクターがないということは今度再びくらったなら命はないということ」

「フムム…………」

アヴドゥルの指摘にポルナレフは考える素振りを見せた。
しかしそれは誰から見ても明らかに演技だということがわかるものであったが、そんなことは気にせずポルナレフは口を開く。

「ウイ。ごもっとも。だが、無理だね」

「無理と?ためしてみたいな」

「なぜなら君のとても『ゾッ』とすることをお見せするからだ」

「ほう。どうぞ」

アヴドゥルが、ポルナレフへそう言った瞬間であった。
ポルナレフの背後で、銀の戦車シルバーチャリオッツが、何体にも分裂する。
否、それは本当に分裂しているわけではなかったが、なまえたちにはスタンドが増えたようにしか見えないのである。
ジョセフたちも驚きの声をあげるが、アヴドゥルは目を見開き、ポルナレフが言ったとおり『ゾッ』としたらしく、じっとスタンドを見つめていた。

「『ゾッ』としたようだな。これは残像だ…フフフ…視覚ではなく君の感覚へうったえる『スタンド』の残像群だ。君の感覚はこの動きについてこれないのだ…」

そして、ポルナレフが裂きに動く。

「こんどの剣さばきは、どうだァアアアアア――――ッ!?」

「クロスファイヤーハリケーン!」

アヴドゥルはポルナレフのスタンドへ炎をぶつけに行くが、穴が開いたのは残像、そしてその奥の地面。
その様子に、ポルナレフはチッチッと舌を鳴らした。

「ノンノンノンノンノンノン。無理と言ったろう。今のは残像だ。わたしのスタンドには君の業は通じない。また君の炎は地面に穴を開けるだけさ」

瞬間、アヴドゥルの体中に切り傷が出来る。
傷は深くはないが、浅いとは言い難かった。
スタンドが軽くなった分、攻撃自体も軽いものになったのかもしれないが、アヴドゥルの体中から血が噴出す。

「なんという正確さ…こ…これは…そ…相当訓練された『スタンド』能力!」

「ふむ…理由あって10年近く修業をした…さあ、いざ参られい。次なる君の攻撃で、君にとどめをさす」

「騎士道精神とやらで手の内を明かしてからの攻撃。礼に失せぬ奴…ゆえにわたしも秘密を明かしてから次の攻撃にうつろう」

「ほう」

目の上に出来た傷から流れる血を拭い、アヴドゥルは立てた人差し指と中指の第一間接を軽く曲げた。

「実はわたしのクロスファイヤーハリケーンにはバリエーションがある。十字架の形の炎だが一体だけではない。分裂させ、数体で飛ばすことが可能!」

そして、再びアヴドゥルの周りの温度が一気に上昇する。
なまえは熱さに顔を歪めるが、承太郎たちは真剣な表情でアヴドゥルたちを見つめていた。
燃え上がる炎がいくつにも分裂し、それらが全て銀の戦車シルバーチャリオッツへと飛んでいく。

「クロスファイヤーハリケーンスペシャル!かわせるかッ――!!」

「くだらん!アヴドゥル!おおおおおお!!」

ズァアアアッ、とポルナレフの四方八方から銀の戦車シルバーチャリオッツが出現する。
残像にも関わらずそれらは円陣を組んだ形をとり、一切の死角が見当たらなかった。
はじき返され、また炎を逆にぶつけられてしまうと花京院たちは危惧する。

「あまい、あまい、あまい、あまいあまいあまいあまいっ!前と同様このパワーをそのままきさまにィ―――――ッ!!」

迫り来る炎を、手馴れた手付きで銀の戦車シルバーチャリオッツは切断した。

「切断、はじき返してェェェェェェェ」

しかし、ポルナレフの怒号はそこで止まる。
突如地面が光りだし、ポルナレフを熱が包み、次いで。

「なにィ〜!」

ポルナレフの悲鳴が、庭園に響き渡った。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -