「恐るべき剣さばき。見事なものだが………」

アヴドゥルが、男が作成した火時計をチラリと横目で見る。

「テーブルの炎が…『12』を燃やすまでにこのわたしを倒すだと。相当うぬぼれがすぎないか?ああーっと」

「ポルナレフ…名乗らしていただこう。J・P…ポルナレフ」

ポルナレフと名乗った男と、アヴドゥルは対峙した。
しかし名乗りをあげるところを見ると、飛行機で出会った男のような人間ではないらしい。
アヴドゥルもそんなポルナレフの態度に応えるため、警戒を少しだけ解いた。

「ありがとう。自己紹介、恐縮のいたり……しかし」

アヴドゥルはポルナレフから視線を逸らさず、手を少しだけ動かす。
その瞬間、ポルナレフが作成した火時計の半分から下が炎によって燃やされてしまった。
そのことにポルナレフだけでなくジョセフたちも驚くが、何より驚いたのは一番近くに居たなまえである。
慌てて花京院たちの後ろへ行き、燃え盛る机を見つめた。

「ムッシュ・ポルナレフ。わたしの炎が自然どおり常に上の方や風下へ燃えていくと考えないでいただきたい…炎を自在にあつかえるからこそ『魔術師の赤マジシャンズレッド』と呼ばれている」

燃え盛る机に驚いたものの、ほんの数秒でポルナレフは平常心を取り戻す。

「フム。この世の始まりは、炎につつまれていた。さすが始まりを暗示し始まりである炎をあやつる『魔術師の赤マジシャンズレッド』!しかし、このおれをうぬぼれというのか?このおれの剣さばきが…」

ポルナレフの手の上で、5枚のコインがチャッと音を鳴らした。
それをおもむろに宙に投げると、それに続いて炎までもが宙を舞う。
そして一瞬。
ポルナレフのスタンドが動いたのは、一瞬だけであった。
しかし、銀の戦車シルバーチャリオットには、それだけで十分すぎるほど。
宙に投げたコイン全てをたったの一突きでその剣先に突き刺し―――しかしそれだけではない。
コインとコインの間にアヴドゥルの火炎をも取り込み、ポルナレフは堂々とそこに君臨していた。

「これがどういう意味を持つかわかったようだな。うぬぼれではない…わたしのスタンドは自由自在に炎をも切断できるということだ…フフ…空気を裂き、空と空の間に溝をつくれるということだ…つまり、きさまの炎はわたしの『銀の戦車シルバーチャリオット』の前では無力ということ」

シュピン、とスタンドの切っ先からコインが地面へ落ちる。
そして、そこで初めてポルナレフの視線がアヴドゥルから逸れた。
その視線はジョセフを過ぎ、花京院を過ぎ。
静かにポルナレフの剣さばきを見ていたなまえで止まった。

「してや、そこの可愛らしいお嬢さん。名前は『名字なまえ』で合ってるかな?」

「コイツに何か用か」

「どうやら正解のようだな」

なまえがポルナレフの言葉に口を開く前に、承太郎がなまえを庇うように一歩前へ出た。
その反応にポルナレフは笑みを深くし、やれやれといった風に首を横へ振る。

「そんな警戒するな。確かにお前達を殺しには来たが、弱い者イジメをするような卑怯者ではないんでね」

「俺は、コイツに何か用かと訊いているんだ」

余裕たっぷりのポルナレフにイラついたように承太郎は眼光を鋭くした。
そんな承太郎の鋭い目つきもおかまいなしに、ポルナレフはいつの間にか手にしていた手紙をヒラヒラと揺らす。

「おれの"知り合い"からの手紙だ。お嬢さん、あんた宛てのな」

「っ!?」

「DIOからの手紙だと―――!?」

「安心しな。中を見るような真似はしてねぇよ」

それをなまえへ差し出すように、ポルナレフは腕を差し出した。
ポルナレフの言葉に驚きの声を零したのはアヴドゥルであったが、他の3人も驚きの表情を隠せていない。
なまえ自身も、ポルナレフの言葉には目を見開いて驚いた。
そしてこちらへ差し出された手紙を受け取りに行こうとなまえが一歩前へ出るが、それを花京院の手が遮る。

「……おいおい。さっきも言ったろ?おれは―――まあいい。どうせここでは戦わねぇんだ。この机の上に置いておくから、外に出るときにでも取ればいいさ」

「何……?」

「おれのスタンド…『戦車』のカードの持つ暗示は、"侵略と勝利"。こんなせまっ苦しいところで始末してやってもいいが、アヴドゥル。おまえの炎の能力は広い場所のほうが真価を発揮するだろう?そこをたたきのめすのがおれの『スタンド』にふさわしい勝利…」

そう言いながらも、ポルナレフは机の上になまえ宛てだという手紙を置いた。
手紙から手を離し、外へ行こうと背を向ける前にチラリとなまえを見て。

「なっ……!?」

なまえの手元に握られていたものに、ポルナレフは驚いたように先ほど自分が手紙を置いた場所を見下ろした。
しかしそこには他の机と同じように食器が置いてあるだけで、ポルナレフが置いていたはずの手紙は既にそこには無かった。

「……なるほど。やっぱりなまえ。おまえもスタンド使いということか」

「…………………」

ポルナレフの言葉に何の反応も示さず、なまえは手紙を持ったまま半分燃え尽きてしまっている火時計へ歩み寄る。
何事だろうかと全員がなまえを見るが、次の瞬間。

「お、おい…!」

「なにィッ!?おまえ、何をしているッ!!」

驚きの声をあげたのは、承太郎とポルナレフであった。
なまえは手に持っていた手紙を、あろうことか燃え盛る炎の中へ投じたのだ。
手紙は勿論紙であるので、あっという間に炎は燃え移り、紙だったものは灰へと変わる。
そしてなまえは、つまらなそうにポルナレフへと振り返った。

「……用件なら、会って直接聞くことにするから」

灰になった手紙は、開かれた扉から入ってきた風に飛ばされて、消えていく。
一切の躊躇いが無かったなまえに、ジョセフの表情が険しくなるのも気付かずに。


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