飛行機は墜落。……を免れ、海上に不時着。
助けに来たヘリコプターで近くの陸地まで連れて来てもらったものの、エジプトのカイロまでは距離が遠すぎる。
あのまま飛行機が無事に飛行していれば今頃はカイロだったが、そんなことは今更何を言っても意味がない。
濡れていない自分たちの身体が無事なことを確認し、5人は道を歩いていた。

「だからジョセフと一緒に飛行機に乗りたくなかったのに」

「なるほど。そういう理由で飛行機が嫌だったんだな…」

そんな会話をしながらとりあえずレストランに入る。
この間にも、ジョセフの娘であり承太郎の母親であるホリィが苦しんでいるのだから。
―――空条ホリィ。日本名を空条聖子というが、彼女もジョースター家の血を継いでおり、DIOの復活と共に彼女にもスタンドが現れたのだ。
スタンドとはその本人の精神力の強さで操るものであり、闘いの本能で行動させるものである。
おっとりした平和な性格のホリィには、DIOの呪縛に対しての『抵抗力』が無く、『スタンド』を行動させる力が無かった。
なのでホリィの『スタンド』がマイナスに働き、"害"になってしまっており、このままでは自分自身のスタンドにとり殺されてしまう。
それはどんな名医にも、そしてどんな優れた機械にも、どうにも出来ない現象である。
だからこそ彼らはDIOを殺し、その呪縛からとこうというのだ。

「…………………」

花京院は、その話をきいたときからなまえについてずっと疑問に思っていたことがある。
DIOに目を付けられた理由も不思議ではあったが―――普通の女子高生をやっていたはずのなまえが、自分の『スタンド』にとり殺されていないという事実。
あの学校で初めて出会ったときも、そこらへんにいる他の女子高生とは何も大差無かった。
スタンド使いときいた今も、なまえがスタンドを使いこなすほどの"戦闘本能"があるとは思えない。
しかし、花京院は先ほどなまえのスタンド能力をしっかりと見た。
承太郎のスタンドでさえ何が起きたかを理解出来なかったのだから、人間業ではないことは確かである。

「………?どうかしたの花京院くん」

「え?ああ…いや。少しボウッとしてただけだよ」

「そっか」

花京院は考えている間、無意識のうちになまえの方へ視線を送ってしまっていたらしく、なまえが不思議そうに花京院を見上げた。
花京院は少しだけ驚いたが、いつもの笑みを浮かべて言い訳を口にする。
なまえは特に気にしていないのか、花京院の言葉に頷いてカップに入った紅茶に口をつけた。
花京院は自分の側にあった茶ビンのフタを持ち、軽くずらす。
カチャ、と音が鳴ったのに気付き承太郎は不思議そうに花京院の手元を見ていた。

「フフ。これはお茶のおかわりをほしいのサインだよ。香港では茶ビンのフタをずらしておくと、おかわりを持って来てくれるんだ」

承太郎の視線の意味を悟ったのか、花京院が承太郎へ説明する。

「また人にお茶をお茶碗にそそいでもらった時は、ひとさし指でトントンと2回テーブルをたたくとこれが『ありがとう』のサインさ」

なまえも、隣で花京院の説明に感心しながら花京院がフタをずらした茶ビンを見つめていた。
すると、香港の料理事情に詳しそうな花京院へ外国人がメニューを持って近寄ってくる。
その外国人は先ほどからなまえの視界に入っていたのだが、ずっとメニューを見つめて悩んでいるようだったので、恐らく花京院に助けを求めに来たのだろうと外国人を見上げた。

「すみません。ちょっといいですか?わたしはフランスから来た旅行者なんですが、どうも漢字がむずかしくてメニューがわかりません。助けてほしいのですが」

なまえの予想通り、その男は花京院に話しかける。
眉は八の字に曲がり、とても困惑した様子であった。
しかし、花京院の隣に座っていた承太郎は「やかましい」と外国人を睨みつける。

「向こうへ行け」

「おいおい承太郎…まあいいじゃあないか」

そんな承太郎を、ジョセフが自分の机の上にもあったメニューを眺めながらなだめる。
何回も香港に来ているのでメニューくらいの漢字はだいたいわかると豪語したジョセフに注文は任せ、なまえは花京院の茶ビンに再び入れられた紅茶を自分のカップに注いで口へ運んだ。

「なにを注文してもけっこううまいものよ。ワハハハハハハハ」

ジョセフが頼んだものは思ったものとは全然違い、ジョセフに周りの冷たい視線が突き刺さる。
それを笑って誤魔化そうとするが、なまえを含めた5人はそんな笑いでは誤魔化されなかった。
しかしどれも食べてみれば美味しく、なまえも無言のままご飯を食べている。
ふと、先ほど花京院へ話しかけた男が何かを発見したらしく、スープに入っていたニンジンを箸で掴んで持ち上げた。
なまえは外国人にしては箸の使い方が上手いなあと感心していたのだが。

「手間隙かけてこさえてありますなあ。ほら、このニンジンの形」

外国人は香港の料理にテンションが上がっているのか、楽しそうに口を開く。
しかし、関わるのが面倒なのかなまえ以外の4人はそちらへ視線をうつそうとすらしなかった。
しかし、次の一言で、彼らの空気は一変する。

「"星"の形…なんか見覚えあるなあ〜」

「…………………」

顔には出なかったものの、男の言葉になまえを除いた4人が反応したことは男にはバレバレだっただろう。
警戒してなかったわけではないが、それでもあまりに唐突すぎるそれ。
男は4人の反応に確信を持ったのか、星型のニンジンを箸で掴むのをやめ、指先でニンジンを掴む。
そして、その表情は真剣なものへと変わり。

      ・・・・・・・・
「そうそう。わたしの知り合いが、首筋にこれと同じ形のアザをもっていたな……」

5人は、対峙する。
一気に空気が張り詰め、誰も何も言わず、動かない。
そしてなまえの隣で冷や汗をかいていた花京院が、ようやく口を開いた。

「きさま!新手の……」

そんな彼らを笑うように、男はその星型を自分の首筋へつける。
まるでジョースターをあざ笑うかのようなその行動と同時。

「ジョースターさんあぶないッ!」

「スタンドだッ!」

ジョセフの前に置いてあった食べ物の中から、鋭い刃物がキラリと姿を現した。
咄嗟にジョセフはそれを左手でガードするが、義手であるにも関わらず、いとも容易く左手が粉砕される。

「『魔術師の赤マジシャンズレッド』!」

咄嗟に、アヴドゥルが自分のスタンドの炎でジョセフへ攻撃を喰らわせたスタンドを焼き尽くそうとした。
しかしその切っ先はくるくると回転し、まるで炎を操るかのようにその剣は静かに動く。

「なにッ!?」

そして、切っ先に炎を纏いながらスタンドは男の背後に君臨する。
手馴れた手付きでスタンドは炎を動かし、横たわる机へと突き刺さった。

「な…なんという剣さばきッ!」

「おれの『スタンド』は戦車のカードをもつ『銀の戦車シルバーチャリオッツ』!」

そうスタンド名を名乗り、男は真剣な表情でアヴドゥルを見つめる。
アヴドゥルの背後にもスタンドが君臨していたが、警戒して男を攻撃しようとしない。
なまえは、自分の横にある、先ほど男が火を投げつけた机を見下ろした。
机は燃えていたが―――それは灰になることなく、段々と文字を形成していく。

「モハメド・アヴドゥル。始末してほしいのはきさまからのようだな…。そのテーブルに火時計を作った!火が12時を燃やすまでにきさまを殺す!!」

男が作成した火時計の針は、数字の8を指していた。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -