「こいつの額には…DIOの肉の芽がうめ込まれていないようだが……!?」

床に倒れた本体を椅子に座らせた際に確認したのだろう。
花京院は頭や舌が割れた老人を観察し、驚いたように口を開いた。

「『灰の塔タワーオブグレー』はもともと旅行者を事故にみせかけて殺し、金品をまきあげている根っからの悪党スタンド。金でやとわれ、欲に目がくらんでそこをDIOに利用されたんだろーよ」

花京院の驚きに、アヴドゥルが静かに説明する。
花京院は信じられないとでもいうように老人を見下ろしていたが、それを悟られないよう顔を伏せた。
アヴドゥルは他の乗客への配慮からか、老人へひざ掛けを頭からかぶせる。
瞬間、ギュイイイインという謎の音。

「変じゃ。さっきから気のせいか機体がかたむいて飛行しているぞ…」

「まさか…!!」

ジョセフの言葉に、なまえは慌てて機内の通路を駆け出した。
一体何事かと、承太郎たちはなまえの背を目で追う。

「お客様どちらへ?この先は操縦室で立ち入り禁止です」

「知ってます!!」

「おい名字!」

客室乗務員の制止も聞かず、なまえは操縦室の扉を開けようとする。
しかし鍵がかかっているらしく、なまえはガチャガチャと扉のノブを揺らした。
そんななまえに、承太郎が足早に近付いて行く。

「(まあ…すてきな男性)」

「どけアマ」

「きゃあ!」

「おっと」

承太郎の容姿に顔を赤く染める客室乗務員。しかし、承太郎はそんな二人はどうでもいいと乱暴に二人をどかし、なまえの背後へと辿り着いた。
承太郎に突き飛ばされよろけた客室乗務員を後ろにいた花京院が優しく抱きとめ、まったく、と言った風に静かに息を吐く。

「失礼……女性を邪険に扱うなんて許せんヤツだが…今は緊急時なのです。許してやって下さい」

「はい」

即答だった。

「オラァッ!」

「っ!」

扉を開けるのを手古摺っていたなまえの後ろから、承太郎が自身のスタンドでドアノブを壊し、勢い良く操縦室への扉を開ける。

「やられた……」

そう呟き、唖然と立ち尽くすなまえの横を、承太郎とジョセフが慌てたように通り過ぎて行った。

「舌を抜かれている。あのクワガタ野郎、既にパイロット達を殺していたのか!」

「降下しているぞ…自動操縦装置も破壊されている……この機は墜落するぞ……」

アヴドゥルと花京院も操縦室へと入り、なまえも歯を噛み締めながら数歩、中へと足を踏み入れる。
ただ幸いなことに操縦装置を壊そうとはしなかったようで、操縦技術を持つ者がいれば墜落は免れるだろう―――と、考えた瞬間だった。

「ぶわばばばあはははーッ!!」

「っ!?」

下品な笑い声と共に、再起不能になったはずの老人が姿を現す。
振り返ったなまえたちは、驚いたように目を見開いた。

「ブワロロロ〜ベロォォォ!わしは事故と旅の中止を暗示する『塔』のカードをもつスタンド!おまえらはDIO様の所へは行けんン!たとえこの飛行機の墜落から助かったとて、エジプトまでは一万キロ!その間!DIO様に忠誠を誓った者どもが四六時中きさまらをつけねらうのドァッ!世界中にはおまえらの知らん想像を超えた『スタンド』が存在するゥ!」

ベチャベチャと、老人の声と共に彼の血が辺りへ飛び散る。
その様子を見てなまえたちは息をのんだが、決して悲鳴をあげることはなかった。
他の乗客が目を覚ましてなければいいが―――と、先ほどなまえを制した客室乗務員へ視線をやる。
老人の不気味さに身体を震わせていたものの、悲鳴をあげまいと必死に恐怖を抑え込んでいるようだった。

「DIO様は『スタンド』をきわめるお方!DIO様はそれらに君臨できる力を持ったお方なのドァ!たどりつけるわけがぬぁ〜い!きさまらエジプトへは決して行けんのどあああああばばばばゲロゲロ〜」

そのまま、老人は糸が切れたように床へ倒れる。
しばらくの静寂。
今度こそ本当に再起不能になったようで、老人はピクリとも動く気配がなかった。

「さすがスチュワーデス。プロ中のプロ…悲鳴をあげないのはうっとーしくなくて良いぜ。そこで頼むが、このじじいがこの機をこれから海上に不時着させる!他の乗客に救命具つけて座席ベルトしめさせな」

「うーむ。プロペラ機なら経験あるんじゃがの…」

「プロペラ…」

いつの間にか操縦席に座っていた承太郎とジョセフを振り返る。
ジョセフの発言に花京院は時代を感じたものの、自分に操縦技術はない。
プロペラ機とはいえ、多少かじったことがあるジョセフに任せたほうがいいのだろうと誰も操縦席を代わろうとはしなかった。

「しかし承太郎…これでわしゃ3度目だぞ。人生で3回も飛行機で墜落するなんて、そんなヤツあるかなぁ」

「………………………」

ポリポリと頬をかくジョセフへ、各々が何か言いたげな眼差しを送る。

「2度とテメーとは一緒に乗らねぇ」

隣に座っていた承太郎が、傾く機体の重力をその身に受けながら小さくそう呟いた。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -