整えられている道路を走る車は、5人も乗せているというのにそのスピードを落とす気配は無い。
アヴドゥルはきちんと法廷速度を守ってはいたが、ホリィのこともあって余裕というわけではないのだろう。
なまえもジョセフからホリィのことを聞いて一度見舞いにと部屋へ訪れたが、その高熱にとても会話が出来る様子では無かった。
既にキャンディーとタバコを戻しており、承太郎は吸い終わったそれを車にあった灰皿へと押し付ける。
二本目を吸おうとはせず、静かに窓の外を見つめていた。

「そういえば、なまえ。お前さん、承太郎と同じ学校だったというのに何故わしに連絡の1つも寄越さなかったんじゃ」

そう言うジョセフとなまえは、スピードワゴン財団になまえが保護されていて知り合った、という風に承太郎たちは聞いている。
特に二人の関係については深くまで問いただそうと思っていなかったため、それ以上のことは誰も何も聞いていなかった。
ジョセフに話を振られたなまえはチラリと横の承太郎を見るが、承太郎は相変わらず外を眺めたままである。

「いや、連絡も何も空条くんがジョセフの孫だなんて知らなかったわけだし…」

「そんなの、承太郎に聞けば一発じゃろうに」

「あのね、ジョセフ。家族構成を聞く以前に、私は今日まで空条くんとは2、3回くらいしか話したことが無いの。なのに突然家族構成訊くわけないでしょ」

そんなことを訊いたら頭のおかしい奴だと今以上に距離を取られるか、下手すれば殴られるかもしれないだろうとなまえは苦笑いを鏡越しにジョセフへ送った。
しかしその説明にもジョセフは納得していないようで、どうすれば納得するのだとなまえは苦笑いの裏で考える。

「わたしはてっきり、名字さんも承太郎のファンかと思っていたんだけど…」

「あはは……もしそうだったらこの空間気まずすぎるけどね…」

あの黄色い悲鳴をあげる集団の中にいる自分が想像できず、なまえは有り得ない予想を口にした花京院へ苦笑いのままそう答えた。
自分がファンである承太郎の祖父と友人で、こうして同じ車に乗る―――修羅場とはまた違うであろうそれを考え、そうでなくて良かったと心の底からなまえは安堵する。

「ファン……?なんじゃその話は」

「え?知らないのジョセフ。空条くんってモテるんだよ。ジョセフに似なくて良かったよね」

「遠まわしにわしがモテないと言ってるのかそれは」

はぁ、と溜息をついたジョセフは意外となまえの言葉に傷付いたらしい。
しかし孫である承太郎の異様なモテ方をみれば自分の言葉の理由がわかるだろう、となまえは冗談じみた笑みをジョセフへ送った。

「名字さん」

そうなまえのことを呼んだ花京院の声は、先ほどのような声ではなく少しおどおどとしたような声音であった。
その微かな変化に、なまえはどうしたのだろうと隣の花京院へ顔を向ける。

「先ほどから喋っているようだけど、その…喉の調子は大丈夫なのかい?」

「え?」

花京院のその言葉に、今まで会話を完全に無視していた承太郎がチラリとだけなまえを見た。
しかし承太郎に後頭部を向けているなまえがそれに気付くことはない。
なまえは自分の喉に手を当て、痛みがあるかを確かめるようにその手を動かした。
花京院の視線はその間なまえの動く手を見つめていて、なまえはどうしたのだろうと首を傾げる。

「虹村先生が手当てしてくれたからもう大丈夫みたいだけど…なんで花京院くんが喉のことを?」

そのことは手当てをしてくれた虹村しか知らないはずだ、となまえは疑問に花京院を見上げる。
既に包帯は取っており、外傷も目立ったものはないので手当てをしたスピードワゴン財団の医師も気付かなかったそれ。
痛みは無いようだ、となまえは手を首から離した。

「実は…その喉の傷はわたしが付けたものなんだ」

「え!?」

驚いたように、なまえは下ろしていた手を再び自分の喉へと持っていく。
花京院は眉を八の字に曲げ、申し訳無さそうになまえを見下ろした。

「あの日、保健室へ行こうとした名字さんの体内に入ったわたしのスタンドで名字さんを操って、承太郎を殺そうとしたんだ」

花京院の言葉に、車内は静寂に包まれる。
アヴドゥルもジョセフも既にそのことは知っていたので、なまえの反応を待つばかり。
なまえは驚いたような表情を浮かべたまま、右隣にいる承太郎を振り返った。

「えーっと……」

「………………」

そのなまえの視線に、なんだ、とでもいうように承太郎がなまえを見下ろす。

「でも、失敗したんだよね?」

「……そうじゃなきゃ俺がここにいねぇだろ」

そういうことか、となまえは保健室へ行く途中で途切れていた記憶を補完する。
あのあと花京院にスタンドで操られたから記憶が無くなっていたのだろう、と目が覚めて何故か傷ついていた喉の内側の原因がわかってなまえはなんだかスッキリしたような気がしていた。
実はというと、その傷の原因は間違って瓦礫を飲み込んでしまったのではないかと虹村に言われていたため、昨日今日は自分の胃が気になって仕方なかったのである。
いくら胃酸が強いと言っても、コンクリートの塊である瓦礫を溶かす自信はなまえに無かった。

「じゃあ、あれ?なんで花京院くんが空条くん側に?」

「花京院の奴も操られてたんだ。DIOの肉の芽とかいうものにな」

「……………………」

なまえは承太郎の言葉に驚いたように目を見開く。

「だがそれも俺が抜いた。こいつはもうDIOの仲間じゃねぇ」

「なるほど。そんなことがあったんだ」

そこで再び、なまえは花京院の方を向いた。
花京院は先ほどまでの雰囲気から一転、視線をどこに落ち着かせようかと泳がせていて。
先ほどの仕返しでもしようかと考えたなまえであったが、あまりいじるのも良くないだろうと笑みを零す。

「じゃあ今度ジュース奢ってね。それで許すから」

「え!」

「じゃあ俺もそうしよう」

「え!君にもかい?」

「冗談だ」

まさか承太郎が冗談を言うとは思っていなかったので、なまえと花京院が驚いたように承太郎を見つめる。
なんだ、というようにジロリとこちらを見られたのでなまえは慌てて目を逸らし、花京院はそんな意外な承太郎に小さく笑みを零した。
ふと、なまえは逸らした視線の先で浮かんだ疑問を口にする。

「でも、そんな状況でどうやって勝ったの?」

「え!」

確かにそれは気になるな、とジョセフは何も言わずにチラリと鏡で後部座席へ視線をやる。
その鏡にはなまえの質問に驚いたように表情を崩す花京院と、未だじっと外を眺めている無表情の承太郎がうつっていた。
ジョセフとアヴドゥルは花京院がなまえを操った際に怪我をさせたということしか聞いていなかったため、あの戦いのことは承太郎たちの二人しか知らないのである。

「いや…その、承太郎がわたしのスタンドを……その………」

「スタンドを……?」

「………そのへんでいいだろ。全員無事だったんだ」

しどろもどろになる花京院になまえは首を傾げるが、そんななまえの隣で承太郎が静かにしろとでもいうように溜息を吐く。
なまえは不満そうに承太郎を見るが、帽子を深くかぶりなおしてしまい、こちらの表情が見えないようにしてしまったのでなまえは諦めてシートに深く座ることにした。


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