なまえは、承太郎の母親であるホリィを看病するためにジョセフに呼ばれたスピードワゴン財団の医師に手当てを受けるため、承太郎たちがいた部屋から一旦離れることになる。
そんななまえを見送ったあと、ジョセフは何かを言いたそうにしている承太郎と花京院に向き直った。
既に虹村の額に埋め込まれたDIOの肉の芽は承太郎の手によって抜かれており、今は虹村が芽を覚ますのを待っている状態である。

「………どういうことか説明してもらおうか、じじい」

「説明…と言ってものう。なまえとは昔知り合った仲というだけで…」

「名字さんもスタンドが使えるようでしたが…それは?」

承太郎の威圧感にも飄々としているジョセフだったが、花京院の質問に驚いたように目を見開いた。
条件反射とでもいうように花京院へ顔ごと視線を向けるが、迂闊だったとでもいうようにジョセフは息を静かに吐く。

「なまえが……スタンドを使ったのか?お前さんたちの前で」

「え、ええ…。一瞬のことだったので、どんなスタンドなのかはわかりませんでしたが……」

驚いた表情から一転、ジョセフの表情に焦りの色が出てきた。
何か不味いことでも言っただろうか、と花京院と承太郎は互いに顔を見合わせる。
ジョセフはしばらく何かを考えるように下を向いていたものの、息をゆっくりと吐き、その重たい口を開いた。

「……なまえは確かにスタンド使いだ。上手く隠せと言ったんじゃがの…スタンド使いに襲われては、それも無理な話か……」

「隠せ……?つまり、名字がスタンド使いだってことは、じじいしか知らなかったってことか?」

「いや。厳密にはわしと友人1人とスピードワゴン財団の数名だけじゃ」

そこまで言って、チラリとジョセフはなまえがいるでああろう二つ隣の部屋の様子を伺うように後ろへ視線を送る。
勿論それで部屋の様子がわかるはずもなく、ジョセフは一度咳払いをすると先程よりも小声で喋り始めた。

「なまえのことはスタンド能力のこともあってスピードワゴン財団が保護しておってな。……なまえが高校に行くと言い出してからは一人暮らしをしているが、今でもスピードワゴン財団との連絡は定期的にしておる。今回スタンド使いに襲われたのは不運としか言いようが無い」

「いや…こいつは名字のことを狙っていたような口ぶりだったぜ」

「何っ……!?」

「ええ。DIOからの命令で彼女のことを襲ったようです。どこからか、彼女の情報が漏れたのでは?」

「そんな…DIOが……」

そういえば、とジョセフは思い出す。
承太郎が今横になっている虹村を"DIOの仲間"と言ったことを。
まさかなまえは承太郎たちの戦いに巻き込まれたのではなく、逆に承太郎たちの方が巻き込まれたのか―――とまで考えて。
承太郎がゆっくり口を開いた。

「もしかして名字はDIOのことを知ってるのか?それなら戦闘向きじゃねぇスタンド使いの名字が狙われたこともわからなくもない」

「しかしDIOが彼ほどのスタンド使いを寄越す情報となると……」

「ぐっ………」

「!!」

承太郎たちの疑問にジョセフが答えを出す前に、彼らの横で気を失っていた虹村が呻き声を出す。
どうやら目を覚ましたようで、苦しそうな声とともに視線を動かし状況を理解しようと辺りを見渡した。

「ここは……」

「目が覚めたか。お前さんはDIOに肉の芽で操られとったんじゃよ」

「DIO…………」

未だにぼんやりとしている虹村に、ジョセフが状況を説明する。
口を閉ざし何かを考え込んでいるような承太郎に代わり、学校でのことをジョセフへの説明もかねて花京院が口にした。
虹村はぼんやりとしている頭で状況を理解したらしく、DIOという存在に怯えるように顔を青くする。

「今はとにかく、DIOについてわかることを言え」

ホリィのこともあり、時間が無い。
今まで黙っていた承太郎が、承太郎は無駄話をするつもりはないとでも言ったように虹村を見下ろした。
アヴドゥルが飛行機の手配をしてくれているようだったので、もうすぐしたら出発しなくてはいけないだろう。
その言葉を受けて、虹村は視線を自分の手元に落とす。

「俺にわかることは無い。ただ言われたことをしただけだ」

「その名字さんについてですが…どうしてDIOは彼女のことを?」

「さあ…俺は彼女について情報を集めろと言われただけだ。仲間に引き込めそうならそうしろとも。なんでこんな子供を、と思ったがそれ以上の詮索を許してはもらえなかった」

ふう、と溜息をついて虹村は痛む頭に手をやった。
そこには丁寧に包帯が巻かれていて、手当てをしたジョセフを見ると静かに頭を下げる。
ジョセフはしばらくそんな虹村を見ていたが、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。

「虹村と言ったか…もしあんたさえ良ければ、DIOを倒す旅に同行してはくれんか?」

「なっ……!?」

承太郎も花京院も、ジョセフのその言葉は想定していたらしく静かに虹村を見つめるだけ。
しかし虹村はその提案に驚いたように声を零し、何故、と言った風にジョセフをその見開いた目で見つめた。

「無理にとは言わない。ただ、DIOを倒すのは簡単ではない…」

だから強力なスタンド能力を持つ虹村にも力になってもらえたら、という意味でジョセフは虹村を見る。
虹村はしばらくジョセフを見ていたものの、眉間に皺を寄せると再び目線を下げた。

「……すまないが、それは出来ない。出来ればDIOには二度と会いたくないんだ」

「そうか」

ジョセフは虹村の言葉をしっかりと受け止め頷いた。

「それに、花京院が負けたことは既にDIOの耳に入っているはずだ。俺が敗北したこともいずれDIOの耳に入るだろう。となれば、あんた達ジョースター家やあの子を狙うスタンド使いはすぐにでもやってくる」

自分の名を呼ばれた花京院は少し反応を示したが、確かにその情報はDIOの耳に入っているだろうと彼の情報網を疑わない。

「あとのことはスピードワゴン財団に任せることにするぞ。わしは少しなまえと話をしてくるから、承太郎たちは準備をしておけ」

そう言って立ち上がったジョセフが廊下で誰かと言葉を交わすと、スピードワゴン財団の人間が部屋へと入って来て虹村へと挨拶をする。
承太郎は何も言わずに立ち上がり、花京院もこの部屋にいても仕方がないと部屋から出る。
なまえがいる部屋へと向かうジョセフの背中を、承太郎は神妙な顔で見つめていた。


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