長い塀を辿り、承太郎と花京院は立ち止まった。
なまえはようやく下ろしてもらえるのか、とホッと顔を前に向け、視界に入ったその光景に声を上げないまでも驚いたように目を見開く。
そこは普通の一軒家では無く、大きな屋敷とでもいえるような広さであった。
チラリと表札を見てみれば、『空条』の二文字が書いてある。

「え……『空条』…?」

「…ああ。ここは俺の家だ」

「あ…そ……そうなんだ……」

普通の人ではないとは思っていたが、まさかこんな屋敷に住んでいるだなんて、となまえは花京院に抱きかかえられていることも忘れ、屋敷をじっと見つめた。
空条承太郎。
立っているだけで女の子が近寄っていき、喋れば黄色い悲鳴があがり、男に絡まれたところで敵などいない。
そしてこれほどの屋敷に住む、お金持ちでもあった。

「(人類の敵だ……)」

「………………?」

なまえは無意識のうちに花京院へ掴まっている指へ力を入れてしまっていたらしく、花京院は不思議そうになまえを見下ろしていたが、考え込んでいるなまえはそれに気付かない。
承太郎は何も言わずに扉を開けて屋敷内へと入っていったため、花京院もなまえを抱えたまま足をぶつけないようにゆっくりと屋敷内へ入って行った。
なまえは下ろしてもらって大丈夫だと言ったが、もう部屋はすぐそこだからと花京院はなまえを下ろそうとはしない。
その言葉に甘えて部屋まで運んでもらうことにしたなまえに歩けるという確証は無かったが、ここが承太郎の家ということはその家族にこんな姿を見られる可能性があるということである。
それだけはどうしても避けたい、となまえの眉間に自然と皺が寄った。

「じじい。入るぞ」

「承太郎!今までどこに行っとったんじゃ!!」

勢い良く開けられた障子の向こうには誰がいるらしく、承太郎は最初からこの部屋が目的だったようである。
花京院も躊躇せずなまえを抱えたまま承太郎の後に続いて部屋に入ろうとしていた。

「(あれ………?)」

しかしなまえはそれに抵抗するどころか、ふと何かが引っかかった気がして承太郎たちの会話に耳を傾けている。

「花京院の情報で、DIOの仲間を見つけた。コイツがそうらしい。肉の芽を取ったら話を聞く」

「な…!DIOの仲間じゃと……!?」

「ああ。俺が肉の芽を取ってる間、じじいは花京院が連れている奴の手当てを頼む」

コイツ、と言って最初に承太郎は自分が肩に抱えていた虹村を顎で示した。
その場にドサリと彼の身体を置かないのは承太郎と花京院によって既に傷をつけられている故の配慮なのか、それともスペースが無いからなのかはなまえからの位置では見ることが出来ない。
もう少し花京院が横にずれるか、承太郎が横を向くかしてもらえれば会話をしている相手が見れるのに、となまえは少しもどかしかった。

「手当て……?まさか、もう1人仲間が…?」

「コイツに襲われてたんだからその可能性は低いと思うぜ」

「そ、そうか…ではここで手当てをするとしよう。花京院、こっちに来てくれるか」

「はい」

男の言葉に承太郎が横にズレ、花京院が前に出る。
そこで初めて、なまえは承太郎が会話していた人物を視界に入れた。
そして同時に、会話していた人物もそこで始めてなまえの姿を視界に入れる。
と、同時。

「えっ―――!!」

「なぁっ……!?」

男となまえは、驚いたように声をあげ、お互いに指を差していた。
言葉も無い、とでもいうようにそれ以上二人が口を動かす気配は無い。
何事かと、花京院と承太郎は顔を見合わせる。

「おい、じじい…」

瞬間、近所の人に聞こえてしまうのではないかというくらいの「あああああ!!」という声が二人分、その場に響き渡った。

「ジョ、ジョセフ……!?」

「なまえ……!!な、なんでお前さんがこんなところに…!!?」

「それはこっちの台詞…!!ここ、空条くんの家でしょう!?」

そのうるささに耳を塞ぐことが出来ないまま、花京院と承太郎は驚きのまま会話を続ける二人に入ることが出来ないでいる。
その間も、二人は驚いたように口をあんぐりと開けていた。

「承太郎はわしの孫じゃ!それより、お前さん承太郎と知り合いだったのか!!?」

「空条くんがジョセフの孫!?ちょっと待って!初耳なんだけど!!」

「うるせぇぞテメェら!!!」

しばらく唖然としていたものの、元々騒ぐ人間が嫌いな承太郎だ、二人を黙らせようといつものように怒鳴りつける。
その声になまえは花京院に抱えられたままビクッと驚いたように承太郎を見つめたものの、怒鳴り声に慣れているらしくジョセフは信じられないとでもいったように口元に手をもっていっていた。

「ど…どういうことです……?ジョースターさんと名字さんは、知り合いなんですか…?」

シン、となった空間で、花京院が恐る恐る疑問を口にする。
承太郎もその答えを知りたいとでもいうように、手元を抑えているジョセフに睨むように視線を送った。

「あ……ああ……なまえとは色々あってな…」

「ジョセフとは…その、友達というか……」

二人とも未だに驚きを抑えられていないのか、言葉がたじたじである。
しかしそれでも答えが聞ければ十分だと承太郎は担いでいた虹村をそっと畳みの上に横にした。
花京院も今気付いたとでもいうようにゆっくりとなまえを床に下ろし、なまえはその場に静かに足を下ろす。
先ほどのように立てないなんてことはなく、なまえはしっかりとその二本の足で立ってジョセフを見上げていた。


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