「な……こいつは………」

「どういうことだ……?」

「ぐ、ぁあ……?」

花京院と承太郎は、目の前の光景に驚いたように目を見開く。
しかし、彼ら二人よりも床に崩れ落ちた男―――虹村のほうが、どういうことだと痛みに身体を硬直させていた。

「こ、こわ……」

「名字さん!?」

「あ、うん。私は…大丈夫だから」

花京院は後ろから聞こえてきたなまえの声に驚き、勢い良く振り返る。
そう―――後ろ。
先ほどまでなまえがいた位置には虹村が承太郎たちの攻撃を受けて今にも気を失いそうにしていて、虹村が糸を切ろうと鋏を手にしていた場所には力が抜けたようにその場に座り込むなまえがいた。

「(これは……)」

・・・・・・・・・・・・・
まるで位置を入れ替えたようだ、と花京院は血を流す虹村へ視線を戻す。
承太郎も驚いてはいたものの、未だ意識を保っている虹村を見て冷静さを取り戻していた。

「とりあえず、コイツをじじいの所へ連れて行こう」

「は……俺、は…何も言わな……い…ぞ……」

「承太郎。恐らくDIOの肉の芽が…」

「わかってる。暴れられたら困るからな…一度気絶させてから連れてくぞ」

「わかった。では、彼女はわたしが」

「ああ。任せた」

花京院が虹村に背を向けた瞬間、ドンッ、という音とともに虹村の呻き声。
布が擦れる音がして、承太郎が気絶した虹村を肩に担いだということがわかった。
承太郎が195cmあるといっても、それは彼だけの力ではなくスタンドの力を借りているのだろうと思いながら花京院は廊下に座り込むなまえへ近付く。

「名字さん。一先ずここから移動しよう。立てるかい?」

「え…?あ、うん……」

しばらく呆然としていたものの、なまえは花京院の言葉に立ち上がろうと足へ力を入れようとした。

「……………あれ?」

「…?どうした?」

「い、いや…なんか、ちょっと」

なまえは試しに自分の足をペチンと叩いてみるが、反応は無い。
立ち上がるよう脳に命令したところで、足が動く気配は無かった。
虹村も気絶し、仕掛けられていたトラップは既に解除されているはずだというのに。
何故だか、なまえは立ち上がることが出来なかった。

「花京院。早く行くぞ。もうすぐ誰かが来る」

「わかった。…名字さん。時間が無いから、申し訳ないけど」

「え?」

瞬間、なまえの身体が宙に浮いた。
何事かと身体を硬直させたが、微かに感じた温もりに自分の状況を咄嗟に理解する。
そして、驚いたように花京院の名を呼んでいた。

「か、花京院くん…!?」

「……少し走るから、しっかり掴まってて。あと、舌を噛むかもしれないから口は閉じておいたほうがいい」

「そんなこと言われて…もっ!?」

爽やかな笑顔でなんということを言ってくれるんだ、となまえは自分を横抱きにしている花京院を見上げる。
この場合の横抱きというのは小脇にかかえるというものではなく、これはいわゆるお姫様抱っこというやつであった。
しかしなまえが拒否しようとする前に花京院は宣言通り走り始めてしまう。
掴まるといったって、と言う言葉の途中で走り始めてしまったので、なまえは咄嗟に花京院の首元を掴んでしまった。
そのことに気付いて焦るものの、チラリと花京院を見上げてみれば平然と走っているだけ。
これが先日彼に対しキャーキャーと騒いでた彼女達なら大喜びなんだろうなあ、と考えて。

「……………………」

ふと、前を走る承太郎を見てみれば、白衣を着ている虹村を肩に抱えて平然と走っているではないか。
確かにああやって抱えられるよりはマシなのかもしれないが、もっとこう、あっただろ。おんぶとか。

「(いや……それもないな)」

なまえは色々と諦め、最後の希望とでもいうようにひたすら誰にも会わないようにと静かに願っていた。


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