プチン、と張られた糸が切れた音がしたと思えば、先ほどと同じような破壊音と共に承太郎と花京院の頭上に瓦礫が降り注ぐ。
悲鳴もなく、二人の姿は瓦礫に消えた。

「おいおい…残念だが、名字。お前に仕掛けた罠が1つだとは言ってないぞ」

「……………………」

なまえは、花京院と承太郎たちに制止をかけたかたちで停止している。
先ほどと同じように喋ることも動くことも出来ない。
動く眼球だけを動かし、瓦礫の下の二人は無事かと目を凝らした。

「空条承太郎と戦うのはもう少し後の予定だったが、こうもあっさり終わってしまうのなら引き伸ばす必要も無かったな。裏切り者も同時に始末出来て一石二鳥…。これで名字。お前をDIO様に引き渡せば俺の将来も安泰だ。スタンド能力についてはわからなかったが、こう見えても俺は観察力が無いからな。多めに見てもらうことにしよう」

虹村が瓦礫を踏みながらこちらへ近付いていることを、なまえは耳で聞いて理解する。
しかし虹村のいう罠のせいでなまえは虹村から逃げることも、虹村へ向かっていくことも出来ないのだ。
自分にかけられた罠が1つではないことと、虹村が意識しなければ見えない糸――――その両方が、なまえの不安を掻き立てる。
一体あといくつ、彼は罠を仕掛けているのか―――

「まあこのままあの方の元へ運ぶのは大変そうだし、一度気絶でも―――」

「オラァッ!!」

「!!?」

なまえのすぐ傍まで来ていた虹村が、驚いたようになまえから一歩下がる。
瞬間、虹村が今まで立っていたところに先ほど承太郎たちの頭上に降り注いだ瓦礫が勢いよく飛んできたではないか。
それを驚いたように見ていた虹村であったが、すぐに体勢を立て直して目の前の二人を睨み付けた。

「てめぇ…今……確かにDIOと言ったな…?」

「……流石未知のスタンドだ。いや…今の瓦礫を防いだのは花京院の方か?」

青筋を立てる承太郎の気迫に、虹村はまるできいていないとでもいうように冷静に分析をする。
しかし名を呼ばれた花京院はそのことに対しては何も言わずに虹村を睨み付けていた。

「洗いざらい、吐いてもらうぜ…DIOのことをよぉ!!」

「吐く?どうして俺が負けることが前提なのかがわからんね…。これだから不良は嫌いなんだ」

虹村が溜息を吐くと同時に、プチン、となまえの後ろで糸が切れる。
瞬間、ガクンとなまえの身体が瓦礫に倒れこんだ。

「名字!!」

「え…なっ!?」

承太郎が驚いてなまえの名を呼ぶものの、この中で一番驚いたとでもいうようになまえは慌てて起き上がる。
自分自身を咄嗟に起き上がらせた腕を見下ろし、動くようになった自分の身体に驚いて虹村を振り返った。

「時間切れか…まあ仕方ない。人質を取りながら戦うなんて頭を使うようなことは正直苦手なんだ」

「名字さん!こっちへ!!」

「う、うん……!」

花京院に名を呼ばれたなまえは、慌てたように自分の両足を動かして承太郎と花京院の元へ行く。
承太郎はなまえが近くに来たのをチラリと見ると虹村へと向き直った。
虹村の手には先ほどとは違って青色の鋏が握られていたが、それも、すぐに黄色へと変わる。

「テメェがその鋏で何かを切る前に殴り倒してやるぜ!」

「お前にそれが出来るかな」

承太郎は虹村の疑問への答えの代わりに無言でスタンドを出す。
勢い良く承太郎の背後から飛び出したスタンドは、虹村へと一直線に向かって行った。
しかし虹村は先ほどの瓦礫から無傷で生還した二人を目の前にしているというのに、酷く冷静である。
まだなまえのことを探っているほうが警戒していたというくらいに、虹村は隙だらけであった。

「……!待て承太郎!!」

「っ!?」

突然、承太郎の後ろで虹村をじっと観察していた花京院が慌てたように承太郎の名を呼ぶ。
突然のことになまえはビクッと肩を揺らしたが、花京院たちの視界には入っていなかったようだ。
承太郎は花京院の制止をきいて、スタンドを虹村の目の前で停止させる。

「ほう……気付いたか。この距離で…」

「なんだと…?」

「彼の周りに、ピアノ線のような細い糸がある。きっとあれを切れば、また先ほどのようなことが起こる」

花京院にそう言われ、承太郎はじっと虹村の周りを注意深く観察した。
いつの間にか承太郎の背後に戻っていたスタンドが虹村の周りの糸を見つけ、承太郎は眉間に皺を寄せる。
確かにそれは虹村の周りを守るように囲っていて、どこからだろうと攻撃すれば一本どころでなくその糸は切れてしまうだろう。
これがあるからこその余裕か、と花京院も同じく眉間に皺を寄せた。

「さあどうする…?お前達が攻撃しても糸は切れ、攻撃しなくとも俺がこの鋏で糸を切る。花京院。お前も、人を選ぶべきだったな」

「このっ……!」

「……悔しいですが承太郎のスタンドは近距離タイプですから攻撃しようとすればあの糸のどれかには触れてしまう。わたしの法皇の緑ハイエロファントグリーンでもあんなに複雑な糸の隙間を縫えるか…」

そう考えている間にも、虹村の手元では黄色の鋏がキラリと光る。

「………大丈夫」

そう小さく言葉を零したのは、花京院の後ろにいたなまえであった。
その言葉に花京院は驚いたように振り返り、承太郎は無言のままゆっくりとなまえを振り返る。

「二人とも、私の合図で同時に私を攻撃して」

「お前……!!」

「名字さん、あなたスタンドが…!?」

承太郎たちの驚愕をなまえは無視して虹村が糸を切らないようじっと見つめていた。
気のせいか、承太郎の眉間に寄っている皺が先程よりも深くなっている気がする。
花京院も驚きを隠せないとでもいうように、一歩なまえへと近付いた。

「というか、今なんと…!?」

「いいから。虹村先生じゃなくて、私を攻撃して。…手加減は無しでお願い」

なまえは出来るだけ小さい声で二人に喋っていたが、この距離で虹村にその言葉が聞こえていないという確証はない。
しかしそれでも、こればかりはアイコンタクトですることは出来なかった。
花京院はしばらく心配そうになまえを見ていたものの、打つ手がない今、なまえの言葉を頼るしかないのも事実である。
どうしようかと眉間に皺を寄せるも、なまえの視線の先にいる虹村は鋏を一番糸が重なっている箇所へとゆっくり伸ばした。
それと同時に、なまえは声を上げる。

「二人とも攻撃して!!」

「―――オラァッ!」

「……っ、エメラルドスプラッシュ!!」

承太郎のスタンドと、多少躊躇った花京院のスタンドの攻撃が、じっと虹村を睨んでいたなまえへと一直線に向かって。

「――――ぐあぁぁあっ!!」

二人の攻撃を受けた悲痛な叫びが、廊下に木霊した。


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