いつもと時間が違うからか、昨日のような黄色い悲鳴は聞こえない。
こうも静かなら、今度から登校時間をずらしてみるか、と考えるがきっといつも通りの時間に出てしまうのだろうと足早に階段を駆け下りた。
学校についてみればいつもより少し遅めの時間で、虹村先生は待ってしまっているだろうかと慌てて保健室への廊下を歩く。

「……………………」

昨日も確かにここを歩き、保健室へと向かったはずだ。
一体共に歩いていたはずの彼はどうしたのだろうと思い出そうとしても、思い出せない。
今度会ったときにでも聞けばいいか、とまで考えて。
保健室の扉の前に立ち、ノックをする。

「虹村先生、名字です」

応答はない。

「………?いないのかな」

もう一度ノックをして名乗ってもそれは同じだった。
トイレか何かで丁度いないのかな、と保健室の扉をゆっくりと開ける。

「キャー!ジョジョ!!」

「ジョジョが来たわ!」

「どうしたの?今日は遅かったわね!!」

その頃、走って学校へ来ていた承太郎と花京院は教室の扉を勢い良く開けていた。
授業前でざわざわとしていた教室は一瞬静まり返ったものの、承太郎の登場に女子生徒たちが一斉に騒ぎ始める。
その様子に花京院は少し驚いたように目を見開いていたが、承太郎はいつも通りに無視をして目的の人物を探し始めた。

「おい!名字はどこだ!?」

しかし承太郎の視力でも、そしてスタンドの視力でもこの教室になまえの姿を発見することは出来なかった。
痺れを切らした承太郎が騒ぐ女子生徒たちを怒鳴りつけるようになまえの居場所を聞く。
その怒鳴り声というよりも質問に驚いた女子生徒たちは、各々が顔を見合わせたりなまえの席を振り返ったりした。

「え?名字さん?」

「そういえば今日はまだ見てないね」

「昨日怪我してたみたいだし、今日は休みじゃない?」

「ていうかなんでジョジョが名字さんのことを気にするの?」

「確かに!まさかそういう関係…」

「ちょっとやめてよー!私のジョジョが!」

「誰があんたのよ!!」

いつものように言い争いが始まり、承太郎はイラついたように顔を歪ませる。
その後ろで花京院が苦笑いを浮かべていたが、承太郎のイラつきは収まらない。
ここにはいないとわかったので、承太郎は教室から離れ違う場所へ行こうとした。

「ジョジョ!もう授業始まるよ?」

「花京院くんまで!」

「すいません。先生には体調が悪いって言っておいてください」

走っていく承太郎に驚く女子生徒たちに、花京院は優しい笑顔を向けてそれだけを言うと承太郎の後を追う。

「しかし承太郎、行く宛てはあるのか?」

「あいつは昨日のことで怪我をしてるみてぇだからな…とりあえずは保健室に行って、いなかったら病院か……」

階段を折りながら、承太郎は昨日のことを思い出していた。
石段を落ちそうになったのはDIOの肉の芽によって洗脳されていた花京院が原因だったので、あそこで自分の横を通り過ぎたなまえは関わっていない。

「しっかし、花京院にまんまと操られてたところを見ると、もし名字がスタンド使いだとしても大したようには見えねぇな…」

「………確かに。それはわたしも引っかかっていた」

それは承太郎なりの冗談だったのだが、なまえをDIOの仲間だと半分信じている花京院には通じなかったらしい。

「あのときわたしは彼女を完全に操っていたし、彼女もスタンドを出す気配はなかった。多少わたしのことを警戒していたようだけど、それも単なる人見知りだということかもしれない」

「……そうだとしても、今は名字に賭けるしかねぇってことか」

今は既に仲間ではないとはいえ、花京院は昨日までDIOの仲間だったのだ。
その仲間に嘘の情報を与えるとは思えない。
恐らく本当にこの学校に"もう1人"DIOの仲間がいるのだろうし、もしかしたら花京院よりもDIOについて情報を持っているかもしれなかった。
母であるホリィのこともあり、あまり時間が無い。
承太郎と花京院は進める足を止めることなく、保健室へと走って行った。

「と言うか、昨日あれだけ大破したのに…」

保健室にいるのか、という疑問を花京院が口にしようとして。

「!!」

「なんだ…今のは!?」

廊下の奥から、何かが壊れたような音がしたのだ。
しかもそれは大きな―――たとえば壁などが―――壊れた音に類似しており、一旦足を止めた花京院と承太郎は慌てたように廊下の奥まで走り、その角を曲がる。

「っ………、」

「なっ……!?」

そこの床には瓦礫や扉が悲惨な状態で落ちており、その瓦礫の隙間に『保健室』と書かれた表札がボロボロのまま落ちていた。
しかし、二人が驚いたのはそのことについてではない。
土煙が立ち上るそこに、見覚えのある女子生徒が立って居たのだ。

「――――名字!?」

驚いたように承太郎がその名を呼べば、二人の存在に気付いたとでもいうようにゆっくりとこちらを向く。
言葉を失う二人の前で、保健室と廊下を隔てていた最後の扉が地面へ崩れた。


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