目を覚まし、喉に触れる。
虹村先生は保険医というだけあって、適切な処置を施してくれたらしい。
何故か半壊していた保健室に倒れていた自分に手当てをし、なまえは一命を取り留めたということであった。
なまえは花京院と保健室へ向かったところまでは覚えていたのだが、そこからの記憶は無い。
気付いたら虹村先生に手当てをされており、その処置のおかげもあってなまえは病院に行かずにすんでいた。
共に保健室へ向かった花京院は大丈夫だったのかと訊いたが、返ってきた答えは「花京院は学校に来ていない」というもので。
なまえはそれを不思議に思ったが、怪我をしていないならまあいいかと彼について訊くことはやめた。

「あー、あーあー」

まあ言うほど傷が重かったわけではないが、先生なりに生徒を心配してくれたのだろうとなまえはあまり関わりたくないと思ったのが少し申し訳なくなる。
そう思いながら喉に手をあて声を出してみれば、問題なく声が出た。
傷が酷いようなら学校へ来なくても大丈夫だと言われたが、そうでもないので身支度をするためにベットから降りる。
学校へ来るようなら一応傷を見せてくれと言われているので、いつもより早く行って保健室へ寄らなければならないが特に問題はなかった。
喉のこともあるので食事には時間がかかるだろうと考え、食事以外の身支度を済ませて椅子に座る。
最後の一枚である食パンにジャムを塗って口に入れ、最後に牛乳を喉にゆっくりと流した。
本当は新商品だというコンフレークが食べたかったのだが、喉に傷を負っているのに刺さりそうなそれを食べては虹村先生に怒られるだろうとなまえは泣く泣く諦めたのだった。

「(明日とかには食べれるかな)」

そう思って机の隅に置いてあるコンフレークを見ていると、プルルル、と家の電話が甲高い機械音を鳴らして揺れる。
家のチャイムが鳴ったわけでもないのに、「はーい」と声を出してなまえは歯ブラシを元の場所に戻してから急いで受話器を持ち上げた。

「はい、もしもし?」

こんな時間に誰だろうか、と少し警戒しながらなまえは電話に出た。
警戒していたために名乗らなかったのだが、どうやら電話の相手はなまえのことを知っているらしい。
『なまえか?』という男の声が、電話口から聞こえた。

『今、電話大丈夫か?』

「うん。10分くらいなら」

『そうか。ちょっとなまえの耳に入れておこうかと思ってな。まあ、とにかく元気そうでなによりだ』

「シーザーこそ」

チラリと時計を見てみれば、いつもより15分ほど早い。
なまえは時間に正確な方ではなかったが、まあ大丈夫だろうと電話の向こうにいる人物を思い浮かべた。

「どう?弟子さんたちに、波紋を教えれてる?」

『俺を誰だと思ってるんだ?ジョジョならまだしも、これくらいどうってことない』

「そっか」

嬉しそうに細められた瞳は、どこか寂しそうでもある。
しかし、思い出したように『そうだそうだ』と声を出したシーザーに、その表情も無くなった。

「どうかした?」

『ジョジョで思い出したんだけど、なまえに言っておきたいってのは日本にジョジョが行ったらしいんだよ』

「ジョセフが?」

電話の本体からなまえが耳に当てている子機へ伸びた紐を指でくるくると遊ばせながら、なまえはシーザーの言葉に首を傾げる。
シーザーはなまえの反応が予想通りだとでもいうように静かに笑い、その理由を口にした。

『どうやらスージーQには不動産会社の社員旅行とか言ってるみたいだが、娘に会いに行くらしくてな。なんでスージーQに内緒にしたいのかはわからないけど、こんな機会じゃないとジョジョと会えないだろ?久々に会っておいたらどうだ、と思ってな』

「うーん…でも、私は学生だし学校もあるからジョセフを探しに日本旅行なんて出来ないよ」

『そうか…じゃあ今度、暇が出来たらジョジョと一緒に日本に行くからそのときはまた飯でも食おうな』

なまえの台詞は最もであった。
しかしなまえも内心せっかくの機会だからジョセフに会いたいとは思っていたものの、妻であるスージーQに隠しているのなら連絡したところで居場所がわかることはないだろう。
そうがっかりしているなまえの様子が電話越しにシーザーに伝わったのか、シーザーも残念そうに息を吐いた。
だがそれを吹き飛ばすように明るい声でそう言うと、なまえは嬉しそうに笑みを浮かべる。

「うん。わざわざ電話ありがとう。もしジョセフに会えたら、シーザーにもよろしくって言っておくよ」

『ははは。ああ。頼んだぜ』

電話の向こうで『シーザー先生』と呼ぶ声が聞こえて、なまえは静かに笑みを零した。
その笑みがきこえたのか、シーザーも静かに笑う。
そしてそのまま、なまえは電話を静かに切った。

「…………ジョセフが、日本に…?」

ざわ、と胸騒ぎがする。
置いた受話器から、手が放せない。
カチ、カチ、という小さな時計の音だけが室内に木霊する。

「っ―――――!?」

ハっとして、勢いよく後ろを振り返った。
しかしそこには誰も居ない。
当たり前だ。自分は一人暮らしだ―――とまで考えて。
電話へ再び振り返り、床へ倒れている鞄を拾って慌てたように部屋の扉を開ける。
部屋の中も見ずに勢いよく扉を閉めて、鍵をかけて。
学校に間に合うか時間を確認していなかったなまえは、昨日よりも足早に学校へと向かった。


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