周りで騒いでいた女子生徒達は授業が始まるということで名残惜しそうに去って行ったが、ようやく解放されたと誰もいない廊下を歩きながら溜息をつく。
膝からの血は止まる気配が無いので、仕方なく保健室への扉を開いた。

「……?誰もいねーのか」

保健室は、シン、と静まり返っている。
保健医も、いつも保健室で授業をサボっている不良達の姿も見当たらなかった。
しかし不良達は学校に来てないだけかもしれないし、保健医はトイレに行っているだけかもしれない。
少し待っていれば誰か来るだろう、と椅子に腰掛けた。
すると、すぐに保健室の扉が開く。

「お前……………」

入ってきた人物は、知っている人物だった。
名字なまえ。
先ほど階段のところで目が合ったのを思い出し、自然と眉間に皺が寄った。
何か―――少し、違和感を感じる。
もうすぐ授業が始まる頃だというのに、一体どうしたというのか。

「………残念だが、今先生はここにいねーぜ」

「……………………」

「どうかしたか…?気分が悪いなら、ベッドが空いてるぜ」

「……………………」

普段ベッドを陣取っている不良達も今はいない。
具合が悪いのなら、勝手に寝ていてもあの保健医のことだ、文句は言わないだろう。
それにこちらへ何の反応も示さないのは、もしかしたら具合が悪いからかもしれないのだ。

「―――――?」

違和感に、無意識のうちに立ち上がる。
その際、ポケットから何かが床へ落ちた。
それは先ほど花京院と名乗った青年から受け取ったものだったが―――それを拾おうとして、視界に入った文章に戦慄が走る。


空条承太郎
本日中にきさまを殺す
わたしの幽波紋スタンドで!
花京院典明



「か…花京院ッ!?」

何かが風を切る音がして、承太郎は反射的に後ろへ跳躍した。
承太郎が立っていた床に万年筆が深々と刺さっていて―――そして。

「名字…テメェ……」

「………ジョジョ。避けないでよ…私達、クラスメイトでしょ?」

そして再び、何かが投げつけられる。
そのスピードはあまりにも早く、承太郎はその違和感の正体に気付いた。
目の前にいるのは名字なまえだが、違う―――普段同じクラスで授業を受けているクラスメイトではない。
しかしそんなことを考えているうちに、目にも留まらぬ早さでなまえは承太郎の目の前へ走り、その手に持っていたボールペンを承太郎の心臓へ突き刺そうと腕を振り下ろした。

「一体誰だテメェ!名字は、俺のことを"ジョジョ"とは呼ばねぇ!!」

「あれぇ…そうなんだ……」

「なんだこの腕力ッ!女の力じゃあねえ!」

承太郎はなまえの手を精一杯止めようとするが、ボールペンの切っ先は段々と承太郎の身体へと埋まっていく。
承太郎は床から得体の知れぬものが這い上がっていくのが見えたのを思い出し、祖父に教わった"スタンド"というものがあれなのかとなまえを見下ろした。
自分が圧し負ける程の力と、正気を失ったような眼差し。
これも―――そして、石段で自分の足を切ったのもあの花京院典明というやつの仕業か、とまで考えて。

「そのとおり…」

「て…てめーは!」

承太郎の思考を読んだとでもいうように、承太郎の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
確認しようと目線を後ろにやれば、見覚えのある明るい髪。
スタンド使いである花京院典明は、保健室の窓に腰掛け、その手に持った操り人形を動かしながら不敵に笑みを浮かべていた。

「彼女にはわたしの『幽波紋スタンド』がとりついて操っている………わたしのスタンドを攻撃することは、彼女をキズつけることだぞジョジョ」

「き…きさまッ!な…何者だ!?」

「わたしの幽波紋スタンドの名は『法皇の緑ハイエロファント・グリーン』。おまえのところにいるアヴドゥルと同じタイプのスタンドよ…わたしは人間だがあのお方に忠誠を誓った」

カチャカチャと、木製の人形が音を鳴らす。
その度になまえの腕や指先が動き、承太郎の心臓を突き刺そうと力を入れる。

「だから!きさまを殺す!!」

花京院が力強く言葉を放った瞬間、メキメキメキメキ、となまえの腕の力が更に増した。
承太郎はなまえの腕を掴み、そのボールペンの切っ先の角度を変えたが、それでもボールペンは承太郎の身体を突き刺すことをやめない。
花京院が叫んだと同時、なまえもそれに呼応するかのように口を開いて―――承太郎は、そんななまえの口の中でキラリと光る二つの目を見つけた。
それはどこか微笑んでいるように見え、これが花京院のスタンドか、と睨みつける。
その瞬間、引き離そうとしていたなまえの身体を逆に思いっきり引き寄せ、その唇に自分の唇を力強く押し付けた。

「!!」

突然のことに花京院が驚くのも無理はない。
そして何をしたのか理解する前に、花京院に痛みが走った。
承太郎のスタンドが、花京院のスタンドを先ほど口付けをした瞬間になまえの口の中から噛み付いて引きずり出したのだ。

「名字をキズつけはしねーさ!こうやって引きずり出してみればなるほど、とりつくしか芸のなさそうなゲスな幽波紋スタンドだぜ花京院!」

その言葉と、引きずり出された法皇の緑ハイエロファント・グリーンに、花京院は歯を噛み締める。
花京院のスタンドはそのまま承太郎のスタンドに押さえつけられ、承太郎は法皇の緑ハイエロファント・グリーンの頭を掴む手に力を込めた。

「花京院!これがてめーの『スタンド』か!緑色でスジがあってまるで光ったメロンだな!」

「引きずり出したことを…後悔することになるぞ……ジョジョ」

そう苦しそうに声を出した花京院の額が、指の形に凹む。

「つよがるな。額に指のあとがくっきり浮き出てるぜ。このまま…きさまの『スタンド』の頭をメロンのようにつぶせば、きさまの頭もつぶれるようだな。ちょいとしめつけさせてもらうぜ。気を失ったところできさまを、おれのじじいの所へ連れていく…」

ツバを吐き捨て、先ほどなまえに傷付けられた身体はどうってことないと言ったように花京院を睨みつけた。
地面に寝かされたなまえは、未だに目を覚まさない。


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