「キャー!ジョジョよ!」

「ジョジョー!!」

朝。
いつもの通学路を歩いていると、後ろからドタドタという足音が聞こえてきて、驚きの速さでなまえのことを追い越していく。
駆けていく女子生徒たちは全員が同じ名を呼んでおり、なまえはこれを聞くのも久しぶりだな、としばらくぶりに苦笑いを浮かべた。
キャーキャーと黄色い悲鳴をあげて走っていく女子生徒たちの目的の人物はなまえからそう遠くないところを歩いていたらしい。
日常すぎるその光景を見なくとも何が起こっているのかは想像ついた。

「(朝から空条くんも大変だなあ……)」

キャーキャーと騒ぐ女の子たちに囲まれた彼を想像して同情するが、それを助けに入る気にもならないし助けられるわけもない。
なまえを追い越していく女子生徒の中には昨日転校生にキャーキャー言っていた生徒も多かった。
歩く速度を段々と早めていき、騒がしい集団を追い越そうと距離を狭める。
ブスだとかペチャパイだとか物凄い暴言が飛び交い、そんな言葉を背後にしている彼が鬱陶しいと怒鳴りつけるが、それも無駄。
見えてきた鳥居の先にある階段を降りればすぐに学校だ、と頭が痛くなりそうな悲鳴をもう少しだけ我慢する決意をする。

「…………………?」

ふと、樹の陰になったところに一人の男子生徒を見つけた。
本当に気をつけなければ気付かないほどに気配が無く、目を凝らさなければその人物を見ることは出来なかった。
恐らく前を歩いている集団の誰もが気付いていないだろう。
その人物はただ静かにスケッチをしているようで、筆を持ったまま何かを考えているようだった。

「(花京院くん……だよね?)」

見覚えのあるその顔とここら辺では見ない緑色の制服を、昨日教室の前に立っていた彼と頭の中で照らし合わせる。
彼に双子の兄弟がいない限り、彼はきっと花京院だろうとなまえは視線を花京院から逸らした。
ここら辺の景色は、確かに鳥居と鬱蒼と生い茂った木々は描き応えがあるだろう。
自分は絵がまるっきり苦手なので今の確信は適当な言葉であったが、自分の頭の中で考えているのだからとなまえは気にしないことにした。
もうすぐ階段へ差し掛かり、悲鳴に囲まれる彼を追い越せるはずだ、と鳥居へ視線を戻した瞬間。

「きゃあああジョジョォーッ!」

女子生徒たちの一層大きな悲鳴―――しかし、どうも先ほどとはあげている悲鳴の種類が違う。
驚いて、何を考えるでもなく鳥居まで走って行った。

「なっ……」

目の前の光景を見て、女の子たちが悲鳴をあげた理由を理解する。
悲鳴をあげた女の子たちに囲まれていたはずの空条承太郎が、木の枝の上に倒れていたのだ。
しかも、その膝からは掠り傷とは思えないほどの血が噴出していて。
叫びながら石段を降り、承太郎へ駆け寄っていく女の子たちの話だとどうやら承太郎は石段から落ちたが、木の枝がクッションになって助かったようだった。
女の子たちに心配される中、静かに承太郎は立ち上がったのでなまえの口からも自然と安心の溜息が出てくる。
ふと気になって、後ろを振り返った。

「…………あれ?」

なまえは、樹の陰にいたはずの花京院の姿を見つけることが出来なかった。

「………………………」

なまえは腕時計を所有していなかったが、いつも通りならば授業が始まるまであと20分くらいだろうと一歩前へ出した足を引っ込めて階段を見下ろす。
ここから学校までは5分弱なので、恐らく絵の道具を片付けて学校へ向かうことにしたのだろうと先ほどまで絵を描いていた花京院のことを考えるのをやめた。
階段を見下ろしてみれば、目の前で石段から豪快に落ちたのにも関わらず、相変わらず女の子たちは承太郎を取り囲んでいる。
普段話さない彼ではあるが、目の前で怪我をしたのだから心配にならないことはない。
しかし、あの集団の中に入っていく勇気は無いな、となまえはチラリとその集団を見て通り過ぎようとした。

「!!」

その瞬間、丁度こちらを見ていたのか承太郎となまえの目線がぶつかる。
まさか目線が合うとは思っていなかったので、なまえは驚いたように目を逸らしてしまった。
次いで、そんなあからさまな行動をとってしまったことに罪悪感が芽生える。

「(うー……ごめん。空条くん)」

しかし今更撤回がきくわけもなく、頭の中でそう謝りながらなまえは階段を軽快に降りていった。
目の前で承太郎が階段から落ちたというのに注意が足りなかったかな、となまえは階段を降り終わってから自分の行動にヒヤッとする。
確かこの階段は人がよく足を踏み外す、という噂があったな、と後ろの女子生徒の高い声を聞きながら学校へと足早に向かった。

「いたっ………」

しかし、一歩を踏み出したところでなまえは左腕に痛みを感じる。
その鋭い痛みに一瞬顔を歪ませたあと、視線を自分の左腕に向けた。

「え………?」

なまえの左腕からは静かに血が流れており、紙で切ったかのようなその鋭い傷になまえは驚いて目を見開く。
自分は怪我をした覚えも、どこかに腕をぶつけた記憶も無かった。
しかもその傷口から見るに、どうもその傷は今さっき出来たもののように思える。
それが階段を降りきったあとでの傷だったので、なまえは少し不気味に思いながら足を進めた。

「(葉で切ったとか…?でも触ってないし……)」

鎌鼬かなにかかな、とこの前読んだ漫画に出てきた妖怪を思い出して恐怖心を無くそうと努力する。
恐い話などは興味本位で見てしまうこともあるが、なまえは基本的にホラーは苦手なのだった。

「……………………」

とりあえず保健室に行って消毒でも、と思い、ふと新任の虹村を思い出す。
悪い人ではないのかもしれないが、なんだかなまえは保健室に行くことを躊躇った。
これくらいの傷なら水道で洗い流せば大丈夫だろう、となまえは靴を履きかえる。
ふとその傷に触ってみれば痛みは無いものの、なんだかその傷が気になって仕方が無かった。


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