綺麗な制服を、恐る恐るクローゼットから取り出す。
数日前、合格通知を貰った次の日に行った採寸の結果、送られてきた丁度良いサイズの制服。
これで晴れて、自分も高校生となるわけだけども。
しかもそれはあの東京・正十字学園町にある、あらゆる学業施設が集約された名門私立校―――正十字学園なのだ。
全寮制とのこともあって、この家ともおさらばである。
結構良い値で売れたこの家のお金は全て学費へとあてられたわけなのだけども。

「それじゃ、行ってきます」

誰もいない部屋に笑顔で手を振り、少女―――名字なまえは新生活への第一歩を躊躇無く踏み出した。

「きっつー……」

高校一年生になったばかりだし、元気はあるほうだと自負していたなまえであったが、自宅から学園まではかなり距離があったらしい。
荷物は全て寮へ送っているので最低限のものだけではあるが、それでも女子であるなまえにはきつかったようだ。
辺りを見回しても今までの道のりを思い出しても、1度も生徒らしき人物には出会わなかった。

「…………もしかしてやらかした?」

入学式早々、と溜息をふかくついた瞬間、なまえの隣を高級車が駆け抜けていく。

「………………」

しかもド派手なピンク色。
何事だろうかと目を見開いたなまえではあったが、はっとなり腕時計を見、立ち止まっている暇はないと歩き出した。
しかし少し歩いたところで何かトラブルでもあったのか、先程なまえを追い越して行った高級車が何も無いところで止まっている。
あまり関わっても良いことはないだろうと素通りしようとした瞬間だった。

「やぁ。晴れましたな」

「!?」

突然高級車の窓が開き、中にいた男がなまえへ声をかける。
もしこれが見知らぬ他人であればなまえも残っている力全てを出し切って逃げ出したであろうが、なまえはその男の正体に驚きを隠せないように声を上げた。

「ファウスト理事長……!?」

「いかにも」

シルクハットをかぶり、大げさなマントを肩に羽織っているその男は、これからなまえが通うことになる名門私立正十字学園の理事長―――ヨハン・ファウストだったのだ。

「してや、お嬢さん。ここから歩いて学園へ向かうのでしたら、着くのは夕方になりますが」

「えっ………!!」

「いや、まあ。夕方は言い過ぎましたね。ともかく、入学式には絶対に間に合いませんよ」

「そ、そんなあ……」

なまえより学園に詳しい理事長にそう言われてしまえば、なまえはその言葉を受けて項垂れるしか無い。
対し、理事長はそんななまえを面白そうに見つめるだけ。
とりあえずそのことをわざわざ教えてくれた理事長にお礼を言って歩き出そう、と思っていた瞬間。

「だったらお前も乗ってけよ!」

「え!?」

「奥村くん…これは私の車なのですが」

「いいじゃねぇかこんな広いんだしよ!それにその為に車止めたんじゃなかったのかよ」

「まあそうですが…すいません。あなたの困った顔が、その、見ていて面白かったもので」

「……………………」

少しはオブラートに包めよと理事長に怒鳴りたくなったなまえではあったが背に腹はかえられない。
見知らぬ少年の言葉に甘え、なまえもド派手な高級車に乗せてもらうことにした。

axios


始まりの焔が終わらせた世界で1人
少女はその手を下ろさない


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