プルルル、と家の電話が甲高い機械音を鳴らして揺れる。
家のチャイムが鳴ったわけでもないのに、「はーい」と声を出しながら、なまえは部屋の奥からリビングへに置いてある電話へと駆け寄った。
学校へ行くための着替えをし終わったところだったので、なまえは既に制服である。
「はい、もしもし?」
こんな時間に誰だろうか、と少し警戒しながらなまえは電話に出た。
警戒していたために名乗らなかったのだが、どうやら電話の相手はなまえのことを知っているらしい。
『なまえか?』という男の声が、電話口から聞こえた。
『どうした。日本のこの時間は、学校じゃないのか?』
「そうだけど…わかってるなら、どうして電話したの?」
『いや、ちょっとなまえの耳に入れておこうかと思ってな。元気そうでなによりだ』
「シーザーこそ」
チラリと時計を見てみれば、走れば学校へ間に合う時間である。
しかし、久々のシーザーからの電話になまえは少しくらい遅刻してもいいかと鞄を地面に置いた。
「どう?弟子さんたちに、波紋を教えれてる?」
『俺を誰だと思ってるんだ?ジョジョならまだしも、これくらいどうってことない』
「そっか」
嬉しそうに細められた瞳は、どこか寂しそうでもある。
しかし、思い出したように声を出したシーザーに、その表情も無くなった。
「どうかした?」
『そうそう。ジョジョで思い出したんだけど、なまえに言っておきたいことってのは、日本にジョジョが行ったらしいんだよ』
「ジョセフが?」
電話の本体からなまえが耳に当てている子機へ伸びた紐を指でくるくると遊ばせながら、なまえはシーザーの言葉に首を傾げる。
『どうやらスージーQには不動産会社の社員旅行とか言ってるみたいだが、娘に会いに行くらしくてな。なんでスージーQに内緒にしたいのかはわからないけど、こんな機会じゃないとジョジョと会えないだろ?久々に会っておいたらどうだ、と思ってな』
「うーん…でも、私は学生だし学校もあるからジョセフを探しに日本旅行なんて出来ないよ」
『そうか…じゃあ今度、暇が出来たらジョジョと一緒に日本に行くからそのときはまた飯でも食おうな』
「うん。わざわざ電話ありがとう。もしジョセフに会えたら、シーザーにもよろしくって言っておくよ」
『ははは。ああ。頼んだぜ』
電話の向こうで『シーザー先生』と呼ぶ声が聞こえて、なまえは静かに笑みを零した。
その笑みがきこえたのか、シーザーも静かに笑う。
そしてそのまま、なまえは電話を静かに切った。
「…………ジョセフが、日本に…?」
ざわ、と胸騒ぎがする。
置いた受話器から、手が放せない。
カチ、カチ、という小さな時計の音だけが室内に木霊する。
「っ―――――!?」
ハっとして、勢いよく後ろを振り返った。
しかしそこには誰も居ない。
当たり前だ。自分は一人暮らしだ―――とまで考えて。
電話へ再び振り返り、床へ倒れている鞄を拾って慌てたように部屋の扉を開ける。
部屋の中も見ずに勢いよく扉を閉めて、鍵をかけて。
学校へ行くか迷いながら、なまえはゆっくりと歩き出した。
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3つの星は惹かれあい、22のカードは導かれる
立ちはだかるは宿命か。それともただのお遊びか