(シルバー&マツバ/携帯獣)



昼間、焼けた塔で出会った少女にジム戦で負けたぼくは、スイクンのことで頭がいっぱいのミナキと共にポケモンセンターへと向かっていた。

「ミナキ、本当にポケモンセンターに泊まるのかい?ぼくの家はいつも通り空いてる部屋ばっかりなのに」

「お断りだ。マツバくんの家に泊まると必ず額に何か落書きをされていて消すのが大変なんだ。自分のゲンガーくらいちゃんとしつけておくべきだろう」

「それはミナキの額が広いのが悪いよ」

「なっ、!!」

「あれ?なまえちゃんだ」

「何っ!?例の子か!」

ミナキは焼けた塔での一件から、彼女のことを何故か"例の子"と呼ぶようになっている。
スイクンが気にしていた少女だからだと興奮していたので、警察に通報しようかと思ったけど警察が可哀想なのでやめておいた。

「なまえちゃーん」

「あ、マツバさん。と、ミナキさん」

名前を呼ぶと、彼女がポケモンセンターのナースさんとの話を中断してこちらを振り向く。
困った様子のナースさんをチラリと見て、再び彼女を見た。

「こんな夜遅くに、どうかしたの?」

「その……ポケモンセンターに泊まろうとしたんですけど、今日は満室みたいで…」

成程それでか、と彼女の後でこちらへ頭だけ下げるナースさんへ笑顔を向ける。

「だってよミナキ。やっぱり君は今日ぼくの家に―――」

「嫌だ!今度泊まったらゲンガーに何されるかわかったもんじゃない!」

「あのねえ……」

しかしミナキは結構頑固な面があり、こう言いだしてしまえばもう後には引かないだろう。
どうしたものかと考えて、舞妓さん達にでも彼女のことを頼んでみようかと言い出そうとした瞬間。

「なまえがマツバくんの家に泊まればいいだろう」

「は?」

「えっ!?」

驚愕の表情をぼくと一緒に浮べた彼女と、目を合わせる。
その発想は無かったし、ぼくは良くても彼女が良くないだろう。
だからミナキはスイクンに見向きもされないんだと溜息をはいた。

「それは彼女が困るだろ。だから―――」

舞妓さんにでも頼んで、と言おうとしたとき、彼女のずっと後で見覚えのある赤い髪が揺れたことに気付く。
確か、焼けた塔で彼女と戦っていた子だ。名前は、なんだったっけか。

「…………………」

「あ、シルバー……」

ぼくの視線に気付いた彼女が、シルバーと呼ばれた少年を振り返る。
少年は更に眉間の皺を深くして、彼女を睨み付けた。

「やあ」

「……………アンタ、ジムリーダーか。なんでこんな所にいるんだよ」

目が合ったので軽く挨拶をすると、不機嫌そうに睨まれる。
そういえばなまえちゃんに塔で変につっかかっていたし、スイクンを見つけて興奮気味なミナキがなまえちゃんに色々話してたときも不機嫌そうにしていたな、と口端をあげた。

「ポケモンセンターが満室で、なまえちゃんが泊まれないらしいからぼくの家においでよって誘いに来たんだ」

「なっ!?」

「え、マツバさん!?」

予想通りというか、想定内すぎるというか、彼女の肩を抱き寄せるようにすれば、少年の眉間にこれでもかと皺が寄る。
ぼくの悪い癖でもあるが、こういう少年をからかうのは昔から好きであった。

「ハックシュン!」

「風邪かい?ミナキ」

「いや、今誰かに噂をされたような気がしてな…」

「お前、やめとけよ。こんな奴の家、何が出るかわかったもんじゃねーぞ」

「え、出るって…何が?」

「オ・バ・ケ」

少年がわざとらしく強調してそう言うと、なまえちゃんの肩がビクッとなったのがわかった(だって肩抱いてるしね)。

「その…マツバさん、出るんですか?」

「んー?まあ出たとしても、なまえちゃんとぼくは一緒のベットで寝るんだから安心していいよ」

ぼくの言葉に、その場にいた全員が固まった(ナースさんもだ)(きっと聞き耳を立てていたのだろう)。

「な、ななな何言ってんだテメェ!」

「そ、そうだぞ!いくらなんでもお前なあ!」

「えー、だって他に空き部屋は無いし、なまえちゃんを床で寝かすのも悪いし、かといってぼくが床で寝るのも嫌だし」

「いやお前空き部屋ならたくさ…ぐっ……」

「あれ?ミナキお腹痛いの?ナースさん、ちょっとこれ部屋に運んであげてくれる?」

誰かにお腹でも殴られてしまったのか、突然ミナキがお腹を抱え込むようにその場にうずくまる。
ナースさんはラッキーと共にすぐにミナキの両腕を持って彼が今夜泊まるであろう部屋に引きずっていってくれた。

「お、お前は良いのかよ!一緒のベットで寝るの!!」

「う、え、いや、だ、だって泊まらせてもらう立場だし、そんな贅沢は言えないし……」

「贅沢うんぬん以前の話だろ!警察沙汰だぞコイツの今の発言!!」

ビシッ、とぼくを指差すが、「仕方ないじゃないか」と言えば、ぐっ、と言葉を詰らせる。
しかし、少し下を向いて肩をわなわなと震わせているかと思えば、勢い良く顔を上げ、なまえちゃんの手を握ってそちらへ引っ張った。

「来い!!お前みたいなロリコン野朗、俺はジムリーダーだなんて認めないからな!」

「ちょ、ちょっとシルバー!?」

そう怒鳴りながら、少年はなまえちゃんを連れ、来た道を早足で歩いていく。
ぼくは困ったように少年とぼくを見比べるなまえちゃんに、笑顔で手を振った。

それも愛のカタチ


(行く場所が無いなら、仕方なく部屋の半分貸してやる!"仕方なく"だからな!)
(あ、ありがとう…)
(で、お前の寝る場所はベットな)
(一緒に寝るの?)
(ななななななわけねぇだろ!アホか!!)


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