「見学者こないっすねー」

「っすねー」

「希望者いないんすかねー」

「っすねー」

「いるかよ俺たち部活動してねぇんだぞ?」

部活動勧誘の波も引き、それぞれが体験入部期間に入っている中、運動部にしては珍しいダルそうな声。
春だというのにニット帽をかぶっている青年と、リーゼントの青年はだるそうにその場にしゃがみこんでいた。
そんな二人に呆れたように突っ込みを入れた水色髪の青年は、竹刀を肩にかけながら溜息をつく。

「まあでも剣道部は何年か前から不良の溜り場って噂広まってるしな」

「本当のことだしな」

「つーか見学者来てどうすんだよ。普段通りの活動見せんのか?」

「確かに…」

「来ないほうが有り難いな…」

二人とも、水色の髪の青年の言葉に同意する。
確かに彼らは全員剣道場の前に居るというのに制服のままで、中にはタバコを口にしている者も居た。

「すいません」

「っ!?」

しかし、彼らは後ろから聞こえた声に驚いて後ろを振り返る。
そこには、此処にいないはずの四人目が存在していた。
そう、後ろ。
彼らの後ろは剣道場の入り口であったはずで、先ほどそこから出てきた水色の髪の青年はきちんと入り口の扉を閉めたはずなのだ。
だがその扉は開いていて、そこには1人の青年が立っていた。
彼は青年達が何か言う前にその笑顔を浮かべたまま口を開く。

「剣道部の方ですか?」

「…あ、ああ…そうだが……」

質問と共に、青年の金色の髪が揺れる。

「入部希望者なんですけど、この紙は誰に提出すれば良いんですか?」

「……………は?」

ヒラリ、と青年がどこからか取り出した紙には体験入部希望部活動名と、青年のクラス、名前が綺麗な字で書かれていた。
そこにはきちんと剣道部と書かれており、しかし、水色の髪の青年が気になったのはそこではない。

「一年、十一組……?」

「じゅ、十一組っつったら、」

特例組スペシャル―――!?」

「いえ、そんな。剣道はやったこと無いので」

リーゼントとニット帽の青年が驚く中、青年は恐縮したように小さく笑みを浮かべる。
しかし、水色の髪の青年は驚く二人を他所に、目の前の青年を警戒するように口を開いた。

「…でも、"特例組スペシャル"つっても十一組は運動特化のクラスだろ?なんで、やったことも無いような剣道部に。それに、剣道部の噂くらい知ってんだろ?」

彼の質問は最もであった。
しかし、青年の顔から笑みが消えることはない。
その恐縮したような笑みは、徐々に余裕ぶった笑みに変わり。

「―――――だからですよ」

キーンコーン、と校舎の鐘が鳴り響く。
その鐘をきいて、教室で授業の復習をしていたなまえは驚いたように顔を上げた。
時計を見れば、授業が終わってから随分と時間が経っている。
そろそろ帰るか、と机の横にかけていた鞄を机の上に持ち上げた。
すると、ガラガラ、と十三組の教室が開く。

「……あれ。どうしたの?ダメ人間くん」

「なんだテメェか」

扉を開けて現れたのは、風紀委員長である雲仙冥利であった。
もうなまえの雲仙に対する認識を改めることは面倒になったのか、雲仙は扉を閉めるでもなく二年十三組の教室へと足を踏み入れる。

「えーっと…教室間違ってるよ?」

「俺はそこまで馬鹿じゃねぇ」

ケンカでも売ってるのか、と雲仙はなまえを睨むが、それが無駄だとわかっているらしくすぐになまえから目を逸らして教室をキョロキョロと見渡した。

「ったく、なんだってんだ……」

「どうしたの?」

「どうしたもこうしたもこっちが聞きてぇっての」

そう言って、雲仙は袖をまくり自分の腕をなまえへ見せ付ける。
そこには殴り書きをしたような文字が書かれていた。

「じゅうさ、ん?…二年、十三組……。ここだね」

「ああ。そうじゃなきゃ困る」

その殴り書きの文字を解読し、なまえはその文字が指し示す場所が自分のいるここだということで納得する。
しかし雲仙は納得していないようで、落ち着かないとでも言った風に教室をうろうろとしていた。

「それ、雲仙くんが書いたの?」

「いや…そうだな。これは俺の字だ。だが、"書いた記憶"が無い」

「記憶が……?」

「だから此処にくればなんかわかるかと思ったんだが…くそ、なんだってんだ…」

イライラしたように雲仙は教室を見渡したが、物に当たることはしないらしい。

「…………………」

雲仙が手を突っ込んでいるポケットの中で何かが折られた音がしたが、なまえは聞こえなかったふりをした。

「あ、わかった!」

「は?何が」

そんな雲仙を見ていて、何かを考え付いたようになまえは声をあげる。
しかしあまりなまえに期待していないのか、退屈そうに雲仙はなまえを見下すようにじっと見つめる。

「ダメ人間くんってバカなんだよ」

「ぶっ飛ばされたいのかテメェ……」

なまえを見ていれば冗談で言っていないことは雲仙にもわかった。
だからこそ性質が悪いと舌打ちしたい気持ちをぐっと堪える。

「……つまり、お前は色々と忘れっぽいんだな」

「え?なんで」

「どう考えたってお前の方がバカだ」

「私、年上なんだけど」

「バカに上下が関係あるかよ」

そう言うと、雲仙は開けっ放しの扉から廊下へと出て行ってしまった。
しばらくその開かれたままの扉を見つめていたものの、自分も帰るか、と鞄に教科書を入れ始める。
全てを入れ終え、開けっ放しの扉から出て行き、振り返って扉をゆっくりと閉めた。

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