「なんだ?名字。お前、競泳部を差し置いて柔道部にでも入ったのか?」

「あ。屋久島くん」

柔道部の勧誘エリアに突っ立っていたなまえに後ろから声をかけたのは、競泳部に副部長である屋久島であった。
そんな屋久島が「久しぶり」と笑みを向けてみれば、なまえも笑顔でそれに応える。
屋久島の視線はチラリとなまえの足元に行ったが、口を開く前に聞きなれた関西弁が耳に入った。

「そういう競泳部は、特例組スペシャルが1人入ったらしいやん?」

「まあな。…って、その言い方だと柔道部は今年0か?」

「そやなあ……」

副部長だからと一応名簿を見る振りをしていた鍋島が、屋久島の登場に名簿を手にしたまま立ち上がる。
パラパラと数枚の紙をめくり、理解したのか名簿を机の上に軽く置いた。

「まあ、そう毎年特例組スペシャルが入ってくるわけでもないからなあ。1人良さそうな子見つけたんやけど、空手部に行ってしもうたし…」

「にしてもそんな部員のことについて気にするなんて珍しいな。いなきゃいけない部長はともかくそれ以外の特例組スペシャルはとっくに帰ってるぜ?」

「そうなの?」

そういえば鍋島が「11組は勧誘なんてしない」と言ってたな、と思い出しながらなまえは屋久島へと首を傾げる。
屋久島はそんな質問にも笑みを崩さず言葉を続けた。

「11組っつうか10から12までの特例組スペシャルは自分に才能があることを知ってるから他人のことは大抵二の次なんだよ。才能が無くとも部活に入りたい奴は入ればいいし、有ったとしても入りたくないなら入らなきゃいい。才能があるならやるべきだって言う奴も居るが、それは半分正解で半分不正解だからな」

「……赤点じゃん」

「お前の点数の話はしてねえよ」

テストが60点以下だったときのことを思い出したのか、なまえは屋久島の言葉に顔を青くする。
そんななまえに呆れるものの、十三組なんだから成績に問題があっても気にすることは無いだろうと頭の中でしていた心配をやめた。

「あれ?なら、どうして屋久島くんはまだ学校に?」

「んー。その1人とちょっと話してたんだよ。十一組の教室に直接来たんだ」

「へえ。なんや、積極的やないの。ウチにも来んかなー」

「別に合計で1人特例組スペシャルがいればいいだろ。ずっと特例組スペシャルがいねぇ部活もあるんだしな」

「……………?」

そう言った屋久島の視線がなまえに向いたので、どうしたのだろうとなまえは首を傾げて屋久島を見上げる。
そんななまえを見下ろし、溜息交じりで屋久島は言葉を口にした。
「剣道部だよ剣道部。あそこは片方の手で数えられるくらいしか特例組スペシャルが居たことがねぇんだ。そういう意味では有名なのさ剣道部は」

「去年もおらんかったし、何故か今の3年は去年の時点で部活をやめとるしな…。それでいくと、今年も入らないんちゃうんか?」

「かもな」

鍋島の言葉にもそちらを向かずなまえの様子を伺っていた屋久島であったが、驚くほどに先ほどまでと様子が変わらない。
それもそうか、と先ほどとは別の意味で溜息をこぼした。

「ま、ええわ。来年に期待っちゅーことで今年はウチが頑張るかな」

「去年も大会の1位を網羅してたくせによく言うぜ」

ヒラヒラと手を振って、屋久島は帰宅するために歩き出す。

「つーか、その短さは俺に会うときだけにしとけよ?名字」

「でも大抵水着だから、スカート自体はいてないよ?」

「あー、まあ、とにかくその短さはやめとけってことだ」

手を振るなまえを振り返ることなく、屋久島は勧誘で賑わうそこを歩いて行った。

「大好評やなあ」

「なにが?」

「なんでもあらへん。ちゅーか、もう帰ってもええでなまえ。付きあわせてすまんかったな」

「別にいいよ。どうせ暇だったし」

「ありがとさん。それじゃ、またな」

「うん。またね」

なまえは別れを言う鍋島に手を振ると、鞄を取りに行くために屋久島とは逆方向へ歩き出す。
後ろはまだ生徒達で賑わっていて、それは校舎内で勧誘活動をしている文化部も同じらしく玄関を通ると新入生があちらこちらに立っていた。

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