突然思いっきり開かれた扉に驚いて二人はそちらへ視線を送った。。
扉はそのまま床に倒れるのではないかとくらいのスピードで壁にぶつかり、その勢いを殺せず跳ね返る。
しかしその跳ね返りを許さないとでもいうように現れた少女は扉に手を当て、足を開き、大の字でニィッと口端を上げた。
「なまえ!久しぶりやなぁ!」
「猫美ちゃん。久しぶり」
「生徒会長さんも、なんやごっつ久しぶりやなあ…」
「ああ。久しぶり。鍋島」
そう豪快に現れた、二年十一組の鍋島猫美に、もうなまえと日之影が驚くことはなくなった。
そんな慣れを「つまらんなあ」と笑っていた鍋島だったが、未だなまえへ攻撃をしかけてくることが無くなったわけではない。
しかしそれも最初の頃のような過激なものではなく、仲良しな友達同士がじゃれあうようなものであった。
「どうかしたのか?今日から一年生の部活体験の日だろ。副部長のお前が行かなくて大丈夫なのか?」
「いや、まあ…急いで行かなアカンねんけど、ちょっとなまえに用があってな」
「私に?」
黒板の上に飾られている時計をチラリと見て、日之影の言葉に鍋島は苦笑いを浮かべる。
そんな鍋島の言葉を予想していなかったなまえは首を傾げて鍋島の言葉を待った。
「せやで。なまえ、ウチと一緒に部員勧誘行くで!」
「……部員勧誘?」
「ん?なんや。十三組はそないなことも知らんのかいな」
「いや、それくらいは知ってるよ。こう見えても私、中学生のときバスケ部に勧誘されたんだから」
「嘘くさ!!」
「もしかして、名字に柔道部の勧誘を手伝わさせるのか?」
なまえの言葉にツッコミを入れる鍋島に、日之影が眉間に皺を寄せながら訊ねる。
その表情は不満というよりも、何故そんなことを、といった風な疑問の表情であった。
鍋島はそういえば説明していなかったな、と日之影へと向き直る。
「会長さん、あんなあ。ウチの部活、男女比が1対9…というより女子が1もいないんよ。柔道着を着てるムッサイ男共が男共を勧誘したって全然釣れないんや。せやから、ここでなまえの出番っちゅーわけ」
語尾に音符をつけるかのようなそのノリに、日之影は呆れたように「相変わらずだな」と苦笑いを零した。
「でもどうして名字を?お前ならそういうことを手伝ってくれる友人の1人や2人いるんじゃないのか?」
「まあおるけど、皆自分達の部活の勧誘で忙しいからなあ…それに11組の連中はウチみたいに勧誘なんてせぇへんし。というより一番の理由は会長さんの反応が見たかっただけなんやけどな」
「……俺の?」
「…………まあええわ。会長さんは寛大なお心みたいやしな」
鍋島は肩を竦め、そしてその笑みを深くしてなまえへと近付いていく。
そしてそのままなまえが着ていたカーディガンの下へ手を突っ込んだ。
「なっ!?」
「え、ちょっ、猫美ちゃん?」
「ええからじっとしとき」
突然のことに日之影は目を見開き、なまえも戸惑ったように一歩下がろうとする。
しかし猫美は素早い手付きでなまえの腰元で手を動かすと、満足したように笑みを浮かべた。
「勧誘するならこのくらいの短さやないとな!」
「え?」
なまえは、閉ざされている猫美の視線の先へと目を動かす。
そこには、なまえの水色のスカートが存在していて。
日之影も固まっていた表情を動かし、今度は不満そうに眉間へ皺を寄せた。
「………それは…短すぎないか?」
「ふふーん。これくらい気合入れんと部員は釣れんで」
「猫美ちゃんもこれくらい短くしないの?」
なまえのスカートの丈は、普段の短さよりも格段と短くなっていて。
しかし見えそうで見えないその絶妙な長さに、日之影は気まずそうになまえから目を逸らした。
「ウチは副部長だからええんや」
「……私も日之影君みたいな制服着れば良かったかな」
「え?いやまあ…それはどうなんだろうな……」
普段のような的確な突っ込みがこなかったことになまえは気づいていないのか気にしていないのか、とりあえずその慣れない丈にスカートを引っ張ったりなどしていじっている。
そして鍋島は、動揺している日之影をよそに先ほど開けた扉から廊下へと出て行こうとして振り返った。
「さ、行くでなまえ!勧誘という名の戦場に……!」
「白旗あげたい…」