「初めましてー。僕ちゃん風紀委員会委員長の雲仙冥利でーす。えーっと、今日は皆さんにちょっと、殺し合いをしてもらいまーす」

新学期。
学年も変わり、三年生は卒業。そして新しい一年生が入ってくる、この日。
春休みあけの全校集会は久々に再会する生徒達で賑わっていたのが一変、騒然としたものになる。

「…って違う違う違う!ダッメだなー、オレって本当にダメだ!大人数を前にするとついつい殺し合いさせたくなっちまうぜ」

綺麗な銀髪に、その人を見下しきった瞳。
しかしそれよりも異様なのは、彼の顔立ちにあった。
童顔や子供っぽく見える高校生は存在するし、その逆も然り。
しかし、彼は。
体育館の壇上にあるマイクの前で雲仙冥利と名乗り、全校生徒を見下す少年は。
どこからどう見ても、両手の指で数えられる歳の子供だった。

「さっきも言ったけど、僕ちゃん風紀委員会委員長の雲仙冥利でーす。この学園には皆さんを粛清するために来ましたー!校則違反や他人に迷惑をかけるカス共には適切な処罰を取らせてもらいたいと思いまーっす!」

シン、となった空気。
彼の言っていることはどこからもどこまでもおかしかった。
静まり返った体育館。
確かに彼は子供だったし、言っていることもなんだかどこかが"オカシ"かった。
しかし、入学したての1年生ならともかく、2年と3年はこの"オカシ"さを知っている。
雲仙冥利。
彼もまた、"異常"に分類される十三組在籍者。

「…………………」

そんな雲仙は満足したように舞台から降りるために歩き出す。
そして、その途中。
体育館の一番後ろに立っている男を、一段と睨みつけた。

「凄かったね、さっきの子」

「ああ………」

学年も変わり、二年十三組。
そこには、生徒会長である日之影空洞とそのクラスメイトの名字なまえが一年の頃と同じ位置の席へ座っていた。

「私、1年の頃出てないからわからないんだけど、もしかして日之影くんもあんな感じだったの?」

「そんなわけあるか」

確かに日之影空洞は1年の頃生徒会長としてああして全校生徒の前に立ったが、至って"普通"の挨拶である。
その挨拶を覚えているのは日之影空洞と担任である椋枝閾くらいだろう。
そして日之影は思い出す。
先ほど、舞台から降りる際に睨みつけたあの少年の視線。
あの視線の先は、どうやら自分だったようだ、と。
しかし先ほどはなまえが居たから彼が自分を認識出来ただけで、あの視線ももう忘れているだろう。

「雲仙冥利。弱冠9歳にして箱庭学園一年十三組。まあ俺もお前も校則違反なんてしてないから、関わることは無いだろうよ」

「9歳…って。本当ならえーっと……」

「小学3年か4年だな」

「ええ!私、その頃ようやく難しい漢字が書けるようになったくらいなのに…もしかして、日之影くんも?」

「そんなわけあるか」

それはどっちの、と訊こうとしたなまえは、日之影が何か考えているように眉間に皺を寄せていることに気付いた。
もしかして先ほどの彼の視線のことだろうか、と考えて、思い出す。
風紀委員と言ったあの少年。
この学園に―――風紀委員なんてあったのか。

「まあ委員長なんてものは大抵特例組スペシャルがなるものだからな。ああいった奴が委員長になってもなんらおかしくはない。それこそ普通組ノーマルが委員長になった方が異常アブノーマルみたいなもんだ」

「よく知ってるね」

「まあ俺は生徒会長だし…委員会は十三組以外だと大抵関わることになるんだよ」

少し関心したように零したなまえの言葉に、日之影は静かに頷く。
そんな日之影の説明になまえは納得したように同じように首を縦に振った。

「あー。そうなんだ。そっか。委員会とかって生徒会の下部組織みたいなもんだもんね」

「まあそうだが、生徒会が何かを指示したところで委員会のメンバーはそれに素直に従うような人間じゃないけどな」

「?」

「―――"下につけども従わず"。それが委員会の基本理念というわけだ。まあ今までに委員会へ直接指示をしたことも無ければ手を貸したこともないから、これからもそんなことは無いんだろうけどよ」

生徒会や委員会は、大抵のことは自分達で解決する。
というよりも、そういったことを解決出来る者が"委員長"や"生徒会長"になるからこそ、委員会も生徒会も成り立っているのである。
それこそが"特例組スペシャル"という枠組みがある箱庭学園の独自のシステムのようなものでもあった。
しかし委員会に関わりもなければそんな機会もないなまえは、日之影の言葉をあまり気にしてはいないようである。

「まあ―――でも十三組アブノーマルの奴が委員長になるのは異例のことだからな…」

「……?やっぱり、そうすると生徒会はやりにくかったりするの?」

「別にそういうわけじゃない。ただ、何をしでかすかがさっぱりわからん。"委員長"なんてものをやってるくらいだから、役割はきちんとこなすだろうけどな…」

日之影の言葉は、後半ひとり言のようなもので。
それを聞いて、なまえは日之影が生徒会長であるということを再認識した。

「…いや。俺の気にしすぎだな。気にするな」

日之影が、先ほどまでの会話など無かったかのように笑みを浮かべ、机の上に広げていた日誌を閉じる。
これから黒板を掃除してから生徒会室へ向かうのだろうか、となまえはぼんやりと机の上の日誌の表紙を見下ろした。
その瞬間だった。

「!?」

ガラガラッ、と普段扉を開ける音の何倍もの大きな音で、十三組へと繋がる扉が開かれる。
そんな扉へ、二人は驚いたように視線を向けた。

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