初めに、規則的に鳴る機械の音が耳に入る。
次いで、自分のであろう呼吸音が聞こえて。

「…………………」

意識する前に、ゆっくりと勝手に目が開いた。
朝、目が覚めるのと同じような感覚。
今も尚耳に入ってくる機械音は自分が持つ目覚まし時計の音とは異なっていたが、まだ寝ぼけているので違うように聞こえただけかもしれない。
いつになく身体がだるいが、二度寝をしてしまっては学校に遅刻してしまう。
無理に身体を起こそうとして、腕を軽く引っ張られることに気付いて腕を見下ろした。

「?」

自分の腕から伸びる、細い管。
そういえば、自分の口と鼻を覆うようにマスクのようなものがつけられているではないか。
軽く外してみれば、なんだか懐かしいにおいが鼻をくすぐる。

「…………病院」

ここは自分の部屋ではなく、どうやら病院の個室らしかった。
自分の腕から伸びている管の先には薬が入った袋があり、どうやら点滴をされているようだ。
ふと、病院とは違うにおいに横を向く。
ベッドの横にある棚の上の花瓶に、綺麗な花が置かれていた。

「あー……。日之影くんかな?」

花弁に触れるか触れないかの位置で手を動かし、それからその手で酸素マスク、とでもいえば良いのだろうか。口と鼻を覆っているマスクを取り外して。
キャスター付きの点滴棒を握り、それに自分の体重を少し預けながら立ち上がった。
少し足元がふらつき、腹部に違和感を覚える。

「(そういえば、撃たれたんだっけ)」

服の上から触れてみれば、どうやら包帯が巻かれているらしく、腰を曲げ辛い。
まあこれは動かさないよう固定するためのものだろうし、あまり動かさないようにして一歩ずつゆっくり扉へと歩いていく。
カラカラとキャスターが音を立てていき、扉の前で一度立ち止まる。
ふと、視線を下に落とした。

「………………?」

足元に、百円玉が落ちていた。
誰のだろうと拾ってみたが、ここは個室で、いるのは自分だけ。

「誰かのお見舞い品かな」

屋久島くんあたりとか、と呟いて、ジュースでも買おうかと病室の扉を横にスライドさせ、誰もいない廊下をゆっくりと歩いて行った。


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