「まあ似ている似ていないは別として、一体こんなところで何をしているというんだ。貴様は」

「何っ…て、見ての、とおり……死にかけ、てる」

「なんだ?それは。偉大なる俺にその遊びを教えて良いぞ」

「えーっと……もしか、して…バカ……?」

「貴様にだけは言われたくない言葉だな」

苦しそうに言葉を紡ぐなまえと、そんななまえを見下ろして首を傾げる都城王土。
そんな二人に、宗像も真黒もついていくことが出来なかった。
先程までの雰囲気が一転―――今ここにあるのは、王土の偉大すぎる存在感と、気の抜けたなまえの雰囲気だけである。
ふざけるな―――と、真黒は声を上げられなかった。
高千穂はどうしたと、宗像は問いをかけれなかった。

「どうせ、殺人鬼の仕業だろう―――いや、"棘毛布ハードラッピング"の言いぶりからすると真黒くんの仕業ということになるか」

殺人鬼、と呼ばれた宗像は一瞬だけ殺意と警戒を強くしたが、そんなことも気にせず王土は目の前でこちらを見上げる真黒をいつもの笑みで見下すだけ。
その真黒の表情には余裕が無いが、ただの虚勢で王土に笑みを向けているわけでもないだろう。

「その…"棘毛布ハードラッピング"だが、今は―――どこに」

「ん…?ああ。偉大なる俺の登場には少し邪魔だったからな。行橋に相手をさせている。まあそれも、5秒持てば良いほうだ」

「一体これは、どういうつもりだい?王土くん」

宗像との会話を遮って、真黒は自分の疑問を口にした。
あまりにも予測不能イレギュラーな登場と、その行動。
そして、なまえが言った『昔』が表すその意味とは。

「どういうつもりもなにも、それはこちらの台詞だ。真黒くん」

既に何回か立ち方を変えている王土ではあったが、真黒を見下すその表情と視線は変わらない。
その行動が意味するものが何なのかわからなかったし、解析する気にもならなかった。

「何って、僕はただなまえちゃんを解析しているだけだ。王土くんをフラスコ計画の要にしたように、宗像くんをおぞましき殺人鬼にしたように、僕は僕なりのやり方でなまえちゃんを解析している」

「それで偉大なる俺を中心にしたように、そいつを死体にするというわけか」

「………結果的にそうなったとして、何か困ることでもあるのかな?」

真黒がいつになく挑発的だったのは、もう後に戻れないと悟っていたからだろう。
それでなくとも普通科の1クラスを丸々眠らせたのだ。
人払いをしていたとはいえ、見つかるのももう時間の問題だろう。
牛深の異常性もいつまで持つかわからない―――それにもったとしても、王土の前では無意味に近い。
そして真黒がどうするかの答えを出す前に、王土は右手を額に当て、両足を肩幅より少し大きく開き、そして最後に左手を前に突き出しその人差し指で真黒を指差して。

「よし、決まった」

静かに、そう口を開いた。

「……何の話だい?」

突然の王土の切り替えに、まるで台本でも用意されていたかの如く真黒は少し間を置いてからその言葉だけを口にする。
そして、もう、王土は立ち方を変えようとはしなかった。

「偉大なる俺の偉大な立ち方の話だ真黒くん。さて―――そんな偉大なる俺の偉大な立ち方が決まったところで」

ずんっ、と教室内の空気が一気に重くなったのが真黒にはわかった。
それは勿論宗像も感じたし、出血を気にすることなく王土を見上げるなまえにも感じてとれるものであった。
それはとても息苦しく、その自己主張を跳ね除けられず、伝説の解析者である黒神真黒はただただ偉大すぎる都城王土を見上げることしか出来ない。

「黒神真黒。貴様がなまえを殺そうとしているのならば、その罪。万死に値する」


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