今日もまた、なまえは病院の待合室のソファに腰掛けていた。
今度は両隣に子供がいて、その2人ともが女の子だった。
なまえはどちらに先に話しかけようかと首を傾げる。
左隣の女の子は自身の両手の平をじっと見つめていて、右隣の女の子は金属バットを握り締めている。
どうしようか、と悩んでいたら左隣の子は名前を呼ばれて診察室へと案内されてしまった。
ちらり、となまえは左を見る。
正直言うと、なまえはこの病院へやってきて同い年くらいの女の子と喋るのは初めてだった。
そんななまえの視線に気付いたのか、バットを持った女の子は不機嫌そうになまえを見る。
「か、」
「?」
目があった瞬間、なまえの口が動いたので女の子は頭に疑問符を浮べた。
「かわいい…」
「!!?」
なまえがボソリと呟いた言葉は、女の子の想定外の言葉だったのだ。
肩までないショートヘアーに、整った顔立ち。
初めて病院で出会った女の子というものに、なまえはひどく感動していた。
「な、何言って…」
「かわいい!!」
なまえはそのまま女の子に勢い良く抱きつく。
女の子は戦慄したような表情を浮かべ、「やめろ!」と必死の形相でなまえを引き剥がした。
無理矢理引き剥がされたなまえは不満そうな表情で女の子を見つめている。
女の子はというと、焦ったようになまえの腕や足などを観察していた。
「?どうかした?」
「あ、いや…お前、何とも無いのか?何処か痛い、とか…」
「え……?うーん、いたくないよ?」
「…なんだ……怪我したことないのかお前」
首を傾げるなまえに、女の子は1人納得したように溜息を吐く。
そして照れたような顔で、再びなまえに向き治った。
「お前、名前は?」
「え?んとね、なまえだよ!」
左胸にある名札を指差し、誇らしげになまえは言う。
「なまえね。私は志布志飛沫だ」
「しぶきちゃんね。わたし、おんなのこのともだちはじめて!よろしくね!!」
えへへ、と笑うなまえに、飛沫と名乗った女の子は目を点にする。
「なまえちゃーん。診察結果が出たわよー」
「あ、はーい!今行きます!」
なまえはソファから降りると、未だに唖然としている飛沫に振り返った。
「じゃあまたね!しぶきちゃん!」
診察室へ行くときに、先ほど左隣にいた女の子とすれ違ったので話しかけようかと口を開いたが、女の子は下を向いたままだったので残念そうになまえは診断結果を聞きに行った。