「ひ………あ……………も、門司…!!!」

まあ予想外の展開ではあったが、それでも別に構わないだろうと一歩踏み出す。
果たして僕のような非力な人間が彼のような不良を一発で黙らせることが出来るだろうかと思考する。
そして解析の結果、一発ではなくてもいいのだと確信して。

「やあ。遅かったね」

「え、遅かったって何が」

彼の後頭部を、力の限り金属バットで殴ってみた。
鈍い音が響き、彼は揺れた頭に動揺する。
すかさず睡眠スプレーをかけ、倒れた彼を見下ろした。

「クラス全員が来なくても別にいいんだけど、遅刻となると話は別だよ宇佐一年生。やれやれ全く、僕は高千穂くんじゃないんだから、こういった肉体労働をさせないでほしかったな」

そう言ったところで、彼にこの言葉は届かない。
重いその身体を引っ張り、汗を流しながら彼を山のてっぺんへと置く。

「君があまりにも遅いから、待っている間に彼らに血のりをかけたり傷っぽくメイクしたり…暇つぶしをしてたらこんな大作になっちゃったわけなんだけどさ」

もういいだろうかと窓を開け、マスクを外す。
行橋未造がなにやら面白そうなものを持っていたため貰ったが、ここまで強力な睡眠スプレーにしたのは黒神真黒自身だった。
―――そう。彼らは真黒の言葉通り、暴行を受けて気を失っているわけではなかった。
彼らは宇佐がかけられたものと同等の睡眠ガスを吸わされ、眠らされ。
肉体労働派ではない真黒が人の山を形成し、今に至る。

「でもがっかりだよ。なまえちゃんが一目置いて、僕が"わからない"と思った普通組が、まさか『たったのこんなもん』だったとはね。屋久島くんの言ったことは本当だったみたいだ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
期待していない人間を映そうとはしていない。
その通りだと、真黒は今なら彼の言葉に心から賛同出来ただろう。
そしてだからこそ、なまえのことがわからなかった。

「ねえなまえちゃん…
やっぱり、周りの人間に、あまり期待はしないほうがいいよ」

真黒はそう、静かに零す。
しかしなまえは真黒の言葉に反論も賛同も出来ないでいた。

「あっ…がっ………」

「それにしてもさっきは抱きつきにきただなんて嘘をついて悪かったね。本当は抱き締めにきたんだよ。なまえちゃんの首をさ」

苦しそうに真黒の下で抵抗するなまえを見下ろしながら、真黒は微塵も悪く思っていないような笑みを浮かべる。
しかし真黒の力無き両腕では思ったよりなまえの首を絞められていないのか、なまえはかろうじて呼吸をしていた。

「そうだね。このままなまえちゃんの首が絞まるまで静寂っていうのもあれだし、僕がどうしてこうしてこの教室に居るのかの説明でもしようか」

「ぐっ……ぁっ………?」

必死に真黒の両手をどけようと真黒の両手に爪を立てるなまえだが、それをうけて血を流したところで黒神真黒の笑みは崩れない。
パソコンでデータを整理しているような、選手を見てデータを収集しているようなそんなノリでなまえの首を絞め続けるクラスメイトは、なまえをじっと見下ろしていた。

「本当は普通組の"彼ら"を解析してなまえちゃんのことをわかったつもりになって帰るつもりだったんだ。でも、普通はやっぱり普通だった。何も面白味の無い、ただの高校一年生だった。だからなまえちゃん、君自身を解析することにしたんだ」

「がっ、はっ、あっ…ゴホッ、」

真黒が首を絞めていた手を緩め、酸素を求めていたなまえの喉に一気に大量の酸素が入ってくる。
突然の解放感に咽返り、真黒から顔を背けて息を整えた。
しかし今度は自由だった右腕を真黒の左手で床に押さえつけられ、真黒は未だなまえの上から動こうとはしない。

「でも、わからない」

腕を掴む真黒の手に力が入り、なまえの顔が少しだけ歪む。

「なまえちゃん。僕はどうやったら君を解析できるのかな」

「くろ、かみ…くん」

まだ意識の霞むなまえが、何か喋ろうと口を開いた。
しかしそれを良しとしない黒神があいている右手でなまえの口を優しく塞ぐ。
黒神の表情はいつものそれとは違って、まるでコンピュータを相手にしているかのよう。

「そうやって、僕を否定しないでくれ」

黒神はただじっとなまえを見下ろす。
気味が悪い。
気持ちが悪い。
不気味だ。
これは何だ。
まるで人の形をした別のものじゃないのか。

「……………………」

なまえは暴れることなく、ただじっと黒神を見上げているだけ。

「君が」

黒神はなまえの目線に怯むでもなく口を開いた。

「君がこれまでの人生で何回殺されかけたのかなんて知りもしないけど安心していいよ。死ぬのはこの1回だけだからね」

優しく微笑むそれはいつもの彼だった。
だが、それでも。
彼は―――黒神真黒は異常だった。

「ああでも、僕の解析から言うともしかしたら邪魔が入るかもしれないね。そして、邪魔に入るとしたら宗像くん辺りだと僕は予測するよ」

彼はああ見えてとてもわかりやすい子だからね―――と言い終わったところで、不意に、真黒の顔がなまえへと一気に近付いた。
キスをされるのかと一瞬身構えたなまえであったが、頬を撫でる風にそれは違うと理解する。
黒神真黒は笑みを浮かべたまま上半身を起こし首だけで振り返って。

「噂をすればなんとやら――――頭を下げなかったら僕の頭は宙を舞っていたわけだ」

なまえは目線を真黒の後ろへ動かし、真黒が話しかけた人物を認識する。
青い髪に、鋭い瞳。そして何よりも純粋で尋常な止め処ない殺意。

「人の噂も七十五日――――だけど黒神真黒。お前の命は今日で終わりだ」

一年十三組、『枯れた樹海』。
異常で過剰な殺人鬼、宗像形がそこにいた。

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