ピコピコと、ゲームの音が鳴る。
なまえは静かに待合室の椅子に座っていた。
隣にいるのはこの前に会ったうさぎのぬいぐるみを持っている男の子ではない。
ゲームをしている男の子は目が悪いのか、眼鏡をかけている。
「…………………」
なまえはまだたったの5歳である。
もしももっと成長しているのであれば、人がゲームをしているときに邪魔をしてはいけないだろうと考えたであろうが、子供であるなまえにそんな思考は無い。
ゆえに、なまえは男の子の方を向いてゆっくりと話しかけた。
「…なんのゲーム?」
「…………………」
男の子はゲーム画面から視線をなまえへと動かす。
そして再びゲーム画面へと視線を向けると、「テトリスです」と静かに言った。
「てとりす?なに?それ」
「……知らないんですか?」
男の子は珍しいものを見るような目でなまえを見やる。
なまえは、興味津々といった顔で男の子が持っているゲーム機の画面を見つめていた。
「こうやって、落ちてくるブロックを」
ポーズ画面にしていたゲーム画面を動かし、男の子はなまえに見やすい位置で操作をする。
積み重ねられているブロックの真ん中にだけ、ブロックが無い。
そこに丁度落ちてきた長いブロックを男の子は慣れた手付きではめる。
すると、綺麗に四段ものブロックの山が一瞬で消えたのだ。
「こうやって、消していくゲームです」
「わー!!!すごい!!!」
なまえの視線は感動したように男の子とゲーム画面を見比べるように行ったり来たりする。
「…凄くなんて無いですよ」
男の子は少し照れたようにゲーム画面を見つめる。
それからずっと少年がテトリスをしているのを、なまえは見つめていた。
「蝶ヶ崎くーん、どうぞー」
「あ。わかりましたすぐに参ります」
「ちょうがさきくん?っていうの?」
「あ、はい。えっと…なまえさん、ですか」
「うん。よばれちゃったね」
「ええ。ではまたいずれ。可愛らしいお嬢さん」
「またてとりすみせてね!」
そう、男の子と別れを告げた数分後に、なまえも別の診察室へと呼ばれたので看護婦さんに案内されてゆっくりと診察室へと向かうのだった。