宗像形がその事実に気付いたのは物心ついたばかりの頃だった。
たくさんの人が行き交う街並みを見て、思う。
ああ。なんて殺しやすそうな――か弱くかすかで儚く頼りない生き物だ。
頭を砕いても首を絞めても胸を刺しても腹をもいでも死んでしまう。
こんな生き物―――殺さずにいるほうが難しい。

「だから僕は君を殺そうと思う」

人を見れば殺すことしか考えられない。
命を見れば奪うことしか考えられない。
虫も殺さないような人殺し。
『殺したがり』という脅威のパーソナリティ。

「S&Wマグナム44とデザートイーグルの二丁拳銃。前回は銃殺出来なかったわけだが、今回はそんなことはないだろうし安全装置を外してからトリガーを引くという動作と弾が出るまでの時間があるとはいえ普通の女子高生が避けれるスピードでは無い。これこそ君の殺害方法にピッタリだ」

「いや、私は普通に斬られたりしても死ぬけどね」

拳銃を二丁、その額に向けられているにも関わらずなまえは笑顔を浮かべた。
そんななまえを見下ろす宗像は相変わらず無表情であったが、そんななまえに疑問をもつように一瞬だけ眉を動かす。

「普通の女子高生という言葉は君には相応しくなかったようだね。普通の女子高生…というより人間は、拳銃を向けられたら怯えるものだ」

「人に拳銃向けちゃ駄目でしょ」

「その前に注意することがあるんじゃないのか?」

どうして自分がつっこまなくてはいけないんだといったように宗像はため息をつく。
なまえの手には鞄が握られているだけで、逆に宗像は鞄を持っていない。
勿論両手には拳銃を持っているため鞄を持てるはずもないのだが、そういえば前に会ったときも手ぶら(武器は除く)だったなとなまえは思い出した。
授業には出ないと言っていたし出ているところを見たことがあるわけではないので、鞄など不要なのだろうと宗像を観察する。

「宗像くんってそんなに武器たくさん持ってて重たくない?」

「重いに決まってるだろ。僕は戦士でも暗器使いでも無くてただの人殺しなんだから」

そうは言うが、宗像がそんな重たいものをたくさん持っているようには見えない。
それすらも彼の異常なのかもしれないが、そんな話をしながらもなまえの目は銃ではなく宗像を見つめていた。
対し、宗像もじっとなまえの顔を見つめる。

「えっとー…参考までに聞きたいんだけど、どうして私を殺そうとしてるのかな」

「理由か。理由なら勿論あるよ。僕は理由なき殺人者じゃない。僕は理由ありきの殺人者だ」

宗像はそう呟きながら頷く。
その質問を待っていたとでもいうように、静かに口を開いた。

「今日はとてもいい天気だ」

だから殺す。

「昼ごはんが美味しかった」

だから殺す。

「昨日の夜はいい夢を見た」

だから殺す。

「特に何も無い」

だから殺す。

「全ての道がローマに通じるよう、僕にとっては全ての現象が殺人に通じるだけなんだよ」

止められない衝動。溢れ出る殺意。
これこそが『枯れた樹海ラストカーペット』という試験体名をつけられた彼―――宗像形の異常性。

「僕は昔、人は殺したら死ぬのかを知りたくて人を殺した。それを皮切りに、何人も何人も…今はここの理事長に匿われてる身というわけなんだよ」

「……………………」

なまえの表情から、笑みが消えた。
宗像の表情は変わらない。
やっと恐れを抱いてくれたか、と黙り込んだなまえを見て、銃を握る手に力をこめた。

「宗像くん」

静かに呼ばれた宗像の、引き金を引こうとしていた人差し指が止まった。
安全装置は外してあるし弾も入っている。
それを引けば、目の前の少女は意図も簡単に、言葉の続きを紡げなくなる。
しかし宗像はそうしなかった。
言葉の続きを待つように、その衝動を打ち消した。

「人は殺したら死ぬよ」

「……………………」

じっと見つめてくる瞳から、目を逸らせない。

「死んだ方がいい人や殺されて当然の人がいないなんてことを言うつもりはないけど、だからって人を殺して良い人はいない」

「―――いいや」

「っ!?」

第三者の声に、なまえは驚いたように振り返り、宗像は戦慄したように目を見開いた。
そこに、というより、此処には宗像となまえの二人しかいなかった筈で。
気配を消すのが上手い宗像も、人の気配に敏感ななまえも、その存在に気付けなかった。
そんな驚く二人を他所に、"その男"は口元に笑みを浮かべたまま口を開いた。

「それでも偉大な俺にはその行為が許される」

"君臨"という二文字が相応しいとでもいうように、男の存在感は圧倒的で絶対的。
跪くことを強いられているような偉大さで、男は二人を見下した。

「何故なら俺は王だからだ」


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