「……………………」
「ど、どうしたの黒神くん。私の水着、何かおかしい?」
「……いや、実はなまえちゃんの水着フィギュアでも作ろうとしたんだけど、やっぱり見ただけじゃサイズとか色々わからないなと思っどぅへっ!!」
「変態が変態なこといったら吹っ飛んでったー!!」
「あ、日之影くん。遅かったね」
「(いつの間に……!しかも、こいつこの前の………!)」
「お前はなんでいつも……」
「?」
「いや。とりあえず屋久島、黒神をプールから引き上げてやってくれ。少し手加減を忘れた」
「あ、ああ……」
屋久島はプールに飛び込みながら"思い出す"。
この前なまえを助けた日(黒神真黒の言うことからして"なまえからあの女達を救った"というべきらしいが)、言い争いで呆然としていた自分からなまえを受け取ると保健室へと運んだ人物。
そのあとやることがあると言って保健室から出て行って―――それで。
「(くそ、)」
・・・・・・・
もう忘れかけている。
どういうことだ。思い出せない。
「大丈夫か?」
「ああ、助かったよ…手加減を忘れるだなんて酷いじゃないか僕は虚弱なんだぞ」
「色んな意味で強いよあんたは……」
黒神を引き上げ、そこへ立つ巨体を見上げた。
そしてようやくきちんと思い出す。
「ジュウサンってのはとことん規格外っつうかな……」
「どうかしたかい?屋久島くん」
「いや。こうして俺がジュウサンと関わってること自体ありえねーって思ってよ」
「ああ。うん…そうだろうね」
そう言ってプールサイドへあがる黒神は、日之影と共に笑うなまえに視線をうつした。
屋久島も綺麗にプールサイドへあがり、揺れる水面を振り返る。
「っ――――――!?」
水面に見えた見知らぬ顔に、驚いて上を上を見上げるがそこには何もいない。
「どうかした?」
「え、い、いや……」
黒神に疑問の声をなげかけられ、彼でも気付かなかったのなら気のせいか、と恐る恐るもう一度水面を見下ろした。
しかしそこには何もなく、ただ自分の顔が反射して揺れ動いているだけ。
「(疲れてんのか…?俺……)」
首をぶんぶんと横に振り、準備体操が終わったらしいなまえの元へとゆっくり歩き出した。
「ふぅー、しっかしまさかあそこで振り返るとはねえ」
「反射神経を持ってる割には回避が遅かったな」
「お前と違って俺は速さをうりにしてるわけじゃねえんだよ。俺はただ避けるだけ」
「もしアイツが顔を見ただけでこちらをどうこうできる能力を持ってたらどうするつもりだ」
「バーカ。漫画の読みすぎだよお前は」
「殺すぞ」
「悪口言われただけでそれとか!もっとクールなキャラだと思ってたぜ俺は!!」
焦ったように苦笑いを浮かべる男――高千穂と、無表情のまま刀を抜こうとする男―――宗像は、プールのある建物の屋根の上に居た。
「しっかしまさか本当に普通に授業受けてるとはねえ……黒神真黒はどうせ観察目的だろうが、なまえちゃんは一体何してんだか」
「…………………」
「どうかしたか?」
「お前、いつの間に彼女と彼女の名前を呼ぶような仲になったんだ」
「え?ああいや、これはなんつーか煽りみたいなもんだよ……って、なんだそれ」
「別に」
こちらと目を合わさずに淡々と喋る宗像に高千穂は首を傾げるが、数秒後には楽しそうな笑みに変わっていた。
宗像は相変わらず無表情だったが、もう刀に手は触れていない。
「ま、黒神真黒にはバレてねえから100点満点ってとこだな」
「いや、80点だろう」
「は?なんでだよ」
「彼女は僕達に気付いてた」
「――――!?」
何故かぞっとして、高千穂は振り返った。
しかし勿論、そんなところには誰もいない。
「っは、ビビらせんなよ宗像」
「彼女がどんなものなのかはわからないが、彼女に気付かれないようにするとなればあの"王様"でも連れてこないと無理だと僕は思う」
「あー、都城、だっけ?一度しか会ったことねぇけどそんなに凄いやつなのか?あいつって」
「"王"を名乗ってるだけのことはある」
「ふーん。でもよ、確かに名字は"凄い"のかもしれねぇが、それだけじゃあいつは動かないだろ。っつうか興味すら持ってねぇと思うぜ、俺は」
「それは僕も同感だ。だから思うだけだ。実行は出来ない」
「めんどくせーな、本当。でも俺は名字に興味がある―――研究者として、あれは調べたい。黒神もそう思ってるはずだ」
「ああ。僕も興味がないわけじゃない」
「おいおい殺すなよ?それじゃ色々調べられない」
「ああ。わかった」
「絶対わかってねえよ…『殺すなと言われた。だから殺す』とか言うだろ絶対……」
高千穂のため息も聞かず、宗像は瞬時にその場から姿を消す。
次いで、立ち上がった高千穂もゆっくりとその場を後にした。