「…………?」

花壇の横に、日本刀が落ちていた。
いや、実際、日本刀をこの目で見たことが無いのでこれが日本刀かどうかすらもわかりかねるが、とりあえず鞘に入った刀が花壇の横に落ちていた。
花壇の花は水遣りで濡れているものの、横に落ちている刀は水どころか土すらもついていない綺麗なものである。
なまえは辺りを見回したあと、誰もいないのを見ると困ったように刀を持ち上げた。

「ん………」

刀というものを生まれて初めて手にしたなまえは、その重量に顔をしかめる。
これが本物か偽物かなどとはなまえにはわからなかったが、とりあえず軽いものではない。
誰の落し物だろう、と考えて。
なまえはその答えが出たように足を進める。
どうせ行こうとしていた場所だ。ついでに届けてあげよう。

「やっほー」

「お。来たか」

見慣れた扉を開ければ、下が地面でなく床であるにも関わらずしゃがんでいる不良達がこちらを向く。
剣道場内はこの前なまえと門司達で掃除をした為、初めてなまえがここに来たときよりは綺麗になっていた。
それでも、数日なまえが来ないとゴミや物が散らかっている始末である。

「これ、花壇に落ちてたよ」

「……これって………」

なまえが差し出した刀を見て、門司達が顔を見合わせた。
門司が刀に手を伸ばそうとして、途中で勢いよく引っ込める。
それから、困惑した表情でなまえへ訊いた。

「これ、どうしたんだよ?本物か?」

「どうした、って。花壇の横に落ちてたんだよ?」

「いや、いやいやいや。落ちてること自体おかしいだろ!」

「?」

門司の焦りように、なまえは刀を抱えたまま首を傾げる。
何か大事なものだったのだろうか、と鞘を見つめるが、鞘はただ真っ黒いだけで何も書かれている様子はない。

「悪いことは言わないからさ、それ、元あった場所に戻してきた方がいいぜ」

「え?門司達のじゃないの?」

「なわけあるかあ!」

門司のツッコミに、なまえは衝撃の事実だといわんばかりの表情で門司を見上げる。

「え、えっと…なんで俺達のだと思ったの?」

後ろから、宇佐が恐る恐るなまえへ訊く。
なまえは「だって剣道部でしょ?」と、なんでそんなことを訊くんだといった口調で答えた。

「いや、剣道部は竹刀……だよな?」

「え?い、いや、俺に訊くなよ…」

「いくらなんでも真剣は使わないだろ。ほら、なんだっけ。なんとか法違反みたいなやつ」

「銃刀法違反?」

「それそれ」

門司の後ろで、宇佐達がこそこそと相談を始める。

「あー、あー。多分それお前のクラスメイトの私物だと思うぜ、名字」

「え、うーん…そうなのかなあ」

なまえは首を傾げながら思い出す。
黒神は自分で自分を戦闘員でないと言っていたし、まさかこれを使って料理などをしているわけもないだろうから除外。
日之影は戦闘員であるらしいし、鍋島が言うには近接最強みたいなもの―――だからといって、彼のような大柄なら刀を使わなくとも戦えてそうではあるが…。
そしてもちろん、自分は既に除外である。

「っつーかあれか、十三組っつったら特待生の中の特待生だろ?みんな学校に来てないから落ちてるわけなくね?」

「こんなの十三組以外に誰が落とすんだよ」

「おい」

「あ………」

宇佐の発言に、門司が短く制止の言葉を言い放った。
そのことで宇佐は自分の発言を失言と見なしたのか、慌てたようになまえを見た。
しかしなまえは何も思っていないようで、手にした日本刀をどうしようかという疑問だけを浮かべている。

「じゃあ私、この持ち主探してくるね!」

「え!?」

そういって笑顔で門司に手を振ったなまえが扉を開けたとき、門司が後ろから「名字!」と声をかける。
振り返ると、困惑したような表情を浮かべて「明日も来てくれるか?」と、門司が訊く。
なまえは少し驚いたあと、「もちろん」とだけ答えて、扉から外へと出て行った。

「…やっぱ十三組、やべー奴らの集まりだな……」

門司の呟きは、扉の向こうへは届かない。

「うーん、とりあえず日之影くんでも探そうかな…」

あれだけ大きい体格なのだから黒神よりは見つかる気がするな、となまえは歩き出す。
それに非戦闘員である黒神よりも戦闘ができる(らしい)日之影の方が人物を特定できるかもしれない、というなまえの勝手な思い込みもそこには入っていた。

「………………?」

今度は、誰もいない廊下に銃が落ちていた。
先ほどのを繰り返すようであるが、実際に銃というものをこの目で見たことが無いのでこれが銃かどうかすらもわかりかねるが、とりあえず銃のような黒い物体が誰もいない廊下に落ちていた。
なまえはしゃがんでそれを拾う。
見た目よりもずっしりと重たいそれに、再びなまえは顔をしかめた。
こんなものを校舎内に落とすなんて、超か弱い超親切な子がここを通りがかったらどうするんだ、持ち上げられないじゃないか、などと的外れなことを思いながら振り返って。

「すまないがそれは僕の武器であり凶器なんだ。ぜひとも返してもらいたい」

聞き覚えの無い声が、なまえの耳に入り、見覚えの無い姿が、なまえの視界に入った。

「落ちてましたよ」

「ああ。ありがとう。君には感謝してるよ」

瞬間、なまえの視界を影が覆った。
何かと思う前に、再び声が耳へと入ってくる。

「―――だから殺す」

冷たい声と共に、鈍い音が廊下に響き渡った。

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