「じゃあおれは用があるから先に行くな。また明日」

「うん。また明日ね」

そう日之影と別れの挨拶をかわし、日之影が教室の扉を開けて出て行くのを見送った。
今日は黒神は授業へ出て無く、授業はなまえと日之影の2人だけで受けたのであった。
今まで黒神がいたからわからなかったものの、日之影もかなり頭がいい。
なまえは先生に出された問題をすらすらと解いていく日之影に少しだけ衝撃を受けていた。
家に帰ってちゃんと復習しないとな、と考えながら教室の扉を開ける。

「よ!」

すると、窓側に背中を預けている見たことのある水色の髪が揺れた。

「門司くんどうしたの?」

「どうしたのってつれねーな!まあいいけど。とりあえず、名字ってこのあと暇だったりするか?」

楽しそうな笑みを浮かべながら、門司は手にした鞄を肩まで持っていってなまえへと一歩近付く。
なまえは何も考えることなく「暇だよ」とだけ答え、門司の言葉を待った。

「じゃあよ、剣道場行かね?」

「え、でも私部活は」

「いや、別に勧誘とかじゃなくてさ!そのなんていうか……そう!一緒にそこで交友を深めよう!って感じ?」

門司の苦し紛れに出た嘘に、なまえは気付いているのか気付いていないのか、ただ首を傾げるだけ。
そんななまえを見てどうしようかと悩み、困ったように「ダメか?」と門司は消え入るような声で呟いた。

「私でよければ」

「……え?マジ?っしゃあ!!じゃあ行こうぜ」

優しく笑みを浮かべてなまえがそういえば、何がそんなに嬉しいのか、飛び上がる勢いで大声を発する。
その喜びように驚くものの、軽く笑みをこぼしてなまえは門司のあとへとついていく。

「ちょっと怖い感じの先輩もいるけど、まあ大丈夫だから安心していいぜ」

「門司君は剣道得意なの?」

「いいや。全然!っつか君付けとかいらねーからさ」

「門司ね。わかった」

「名字は部活とかは入らないのか?」

「うん。そのつもりだよ」

「そっか。じゃあ暇なときは剣道場来ていいぜ。特に部活やるってわけでもねえしな」

「ありがとう。でもなんで剣道場なの?」

「え?ほらまああれだよ、竹刀ってなんか格好良いよなーっていう」

「不良みたいな?」

「まあそんな感じだな」

そんな他愛のない会話をしながら、2人は剣道場へと歩いていく。
なまえの横を歩いているわけではないが、門司はきちんとなまえの歩む速度に合わせて歩いてくれているようだった。

「っというわけでここが剣道場なわけだが、とりあえず扉開けたら学年クラスフルネーム、あとはまあなんか一言言ってくれればいいからさ」

「一言?」

「あー…『門司の友達です』とか…って嘘嘘!恥ずかしいよな、っておい!!」

ノックも何も無しに、なまえは目の前の両開き型の扉の片方を開ける。
慌てて門司がもう一方の扉を開け、外からの風が建物内へと拭き抜けた。
ぐるりと見渡すまでもなく、そこには10人以上の柄の悪い生徒達がたむろっているのがわかった。
しかしなまえはそれに脅えることなく、平然と口を開く。

「1年13組名字なまえ。門司の友達です。どうも」

「(本当に言ったしこいつ……)」

笑みを浮かべるまでもなくそう門司に言われた通りに言ったなまえの登場に、静まり返っている空間が動揺を始めた。
それを感じ取った門司は、なまえが何か他に行動を起こす前に、となまえの前に立ち口を開く。

「ということで、名字が暇なときは名字も一緒にたむろうんでよろしくお願いしまーっす。……先輩」

「…………………チッ」

門司の言葉に、その場にしゃがんでいたり座っていたりした数人が立ち上がり、ぞろぞろとなまえと門司の横を通っていく。

「こんなガキ……」

「おいやめとけ」

小さく苛立った声がなまえの耳にも入ったが、不良というものをあまり知らないなまえは気にせず剣道場を見渡した。
あまり綺麗とは言えないそこの空間に残ったのは先ほどの不良達よりも少し幼い顔をしているようで。
なかには年がわからないような顔の人もいるがおそらく同じ1年生だろう、となまえは思う。

「………………………」

門司は笑みを浮かべながら先輩が剣道場から出て行くのを見守る。
そして剣道場の扉が閉められたところで、門司は再びなまえを見た。

「じゃあよろしくな、名字」

そういった門司の笑みは先ほどとは違い、とても嬉しそうな顔で微笑んでいた。

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