「(また早めについてしまった…)」

相変わらず教室の中には誰もいなく、静まり返っている。
はあ、と静かにため息をはいてなまえは扉を後ろ手に閉めた。
そして三歩程歩いて。
後を振り返った。

「あら。バレてしもた」

驚いたような表情を浮かべた少女がそこにいた。
閉めたはずの扉は開かれていて、何の音もしなかったが、確かに少女はそこにいる。
そしてそんな表情とは逆に、声は至って普通であった。
まるでなまえが振り返るのをわかっていたかのように、少女はすぐに微笑んだ。

「も、もしかして13組の人…?」

そんな少女の微笑をうけて、なまえは期待をこめた眼差しで彼女を見る。

「あー、期待裏切って悪いねんけど、ちゃうねん。アタシは特別体育科の11組なんや」

「え?じゃあクラス間違ってるよ?」

「わかっとるわ……」

あっさりとしたなまえの切り返しに、少女は肩透かしをくらったように眉を八の字に下げた。

「13組っちゅーもんがどんなもんか知りたかったんや」

「あー、でも」

そう言って教室内をぐるりと見渡し、なまえは肩をすくめる。

「なんでかみんな来ないから、あんまり意味ないかも」

苦笑いでそう答えながら、なまえは少女に背を向けて自分の席へと歩き出す。
しかしその背後で、少女は笑った。

「そーでもないで」

「え?」

「あんたがおるやろ」

瞬間暗転した視界に、なまえは声も出さないまま驚くしかない。
次いで、手に持っていたはずの鞄が地面に落ちる。

「どうしてこうなったんや」

「あれ?何この状況」

地面にうつ伏せで倒れている少女と、その背中の上に跨るように座るなまえ。
なまえが手にしていた鞄は、2人より少し離れたところで倒れていた。

「な、なんであんたがアタシの上に乗ってんねん!?」

「いやあ、それは私が訊きたいくらいなんだけど……」

「なまえちゃん朝からアダルトだねー。そしてピンクと白のボーダーときた」

「あ、黒神くん」

首だけで後を振り返ると、開いたドアからこちらを見下ろす黒神真黒と目があった。
―――否、彼の視線はなまえの顔よりも下にある。

「黒神くんも朝から男の子やってるね」

「わあ。なまえちゃんは朝からパンツを見られても動じないのか。うーん、僕としては恥ずかしがるなまえちゃんが見たかったんだけど」

「いやあだって黒神くんだし」

「まるで僕が変態みたいな言い方だね」

「なんでもええからはよアタシの上からどいてくれ!」

「あ、ごめん」

なまえが重いというわけでもないが、少女は両手両足をバタバタさせながら暴れていた。
人が自分の背中に乗ることに慣れていないのだろう。
なまえは謝罪の言葉と共に急いで彼女の上からどく。
なまえ達と、少女が向かい合った。

「で、この子誰?」

「え、知らない」

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