少女、名字なまえは、1人静かに校舎内を歩いていた。
そこに黒神真黒と日之影空洞の姿は無く、そして生徒の姿も見当たらなかった。
「………………かーえろっと」
進めていた足を止め、くるりと方向転換をして来た道を引き返す。
真黒に言われた言葉を思い出して、それから外を見た。
部活動を見に行くとは行ったものの、特にやりたいことがあるわけではない。
強いて言うならば放課後の暇な時間をどこかで潰したかったというだけなのだから。
「ま、入るとしたら吹奏楽部とか―――」
と、そこまで呟いて。
角を曲がろうとした瞬間、何かにぶつかって後ろへと跳ね返された。
そのままバランスを崩し、なまえは尻餅をついてしまう。
そこで初めて、自分が誰かとぶつかったということに気が付いた。
「ってぇ……って、大丈夫か!?」
「あ、うん。はい。大丈夫、です」
左頬の傷跡に目がいったなまえではあったが、身体を心配されて視線を相手の目へと持っていく。
相手はすんなりと立ち上がり、制服をはらうこともせずになまえへと右手を伸ばした。
「ほら、立てるか?―――って、もしかして先輩だったりするか?」
「えっと、一年生です。…ありがとうございます」
差し出された右手を掴み、起こしてもらう。
立ち上がってみると、なまえよりも背は高いようだ。
左頬の傷跡が気になってはいるが、突然そんなことを聞くのもおかしい話だろう。
なまえは静かにお礼を言った。
「なんだ1年か!俺も1年だから敬語とかいらねぇよ」
と、そこまで言って。
遠くから聞こえるバタバタと慌ただしい音に、なまえは横を向いた。
「門司!お前、どこ行ってたんだよ!!」
「あぁ悪ぃ。この校舎広いから迷子になってたんだよ」
「そうかよ…。って、誰だ?この子」
睨まれたら子供が泣きそうな感じに怖い顔をしたスキンヘッドに見下ろされ、なまえは「(不良だ…)」と勝手に決め付ける。
まぁ実際そうなのだが、今のなまえにそれが本当かどうかなどはわからない。
「いや今ぶつかっちまってよ…悪かったな。怪我とかないか?」
「お前がそんなに優しさに溢れてるとか気持ち悪いな」
「うるせぇよ!!」
なまえはそんなやり取りに笑い、「してないよ」と怪我の有無を伝える。
「そりゃ良かった。それじゃあな」
「うん。バイバイ」
ついでにスキンヘッドの人とも別れの挨拶をかわし、なまえは下校へと足を進めた。