別に志望校というものが無かった私は、適当に中学のときの担当に勧められた高校に入学した。
同じ中学の子たちはほとんど違う高校へ行ってしまったりしたので、ほぼ知り合いはいないといっていいだろう。
春から新しい学園生活が始まるのだから、気合入れて行こうと思っていた矢先。

「君に登校義務はありません」

理事長室で、某魔法学校のダンブルドア校長の毛をもっと少なめにした感じの理事長にそういわれてしまった。
今なんと、と聞き返すことすらできない。
――――登校義務がない?
中学じゃあるまいし、高校には卒業するのに必要な単位というものがはるはずだろう。
何を言っているんだろうこの人は。ボケたのか。まあ71歳とパンフレットに書かれていたのでボケてしまうのも仕方ない話だ。

「ははは。驚いた顔をしていますね」

そりゃ驚くだろ。

「登校義務が無いって…えっと……つまり………?」

「ああまぁあなた方が書類をきちんと見ているとそんなに期待はしていなかったですからねぇ……そのままの意味ですよ。あなたが在籍する予定のクラス――つまり1年13組ですが、その13組にはどの学年であれどんな人物であれ、この学園に登校しなくても卒業することは出来ます。特待生の中の特待生というわけですよ」

「(あーあーあー…)」

ああそういえば、と頭の片隅に放置されていた記憶を引っ張り出す。
理事長である彼の話をずっと聞いて、今ようやく推薦書にそんなようなことが書いてあったような無かったようなことを思い出した。
手続きやら新しい制服やらで慌ただしくてちゃんと読んではいなかったが。

「この世には三種類の人間がいます」

「………………?」

血液型の話かと思ったがそれだと一種類足りないしそもそも四種類というのは日本だけの話だ。

「即ち通常ノーマル特例スペシャル異常アブノーマル

理事長の細い目が、鋭く光った気がした。

「名字さん」

「はっ、はい」

突然名前を呼ばれたので、返事をしながら背筋を伸ばしてしまう。

「この中に入っているサイコロを振ってください」

「へ……?」

そういって目の前に差し出されたワイングラス。
その中には8個の六面サイコロが入っていた。
理事長をチラリと見るとニッコリとこちらを見ている。
振れ、ということだろうか。

「え、えーいっ」

少し声が上ずってしまったが、とりあえずサイコロを振る。
コロコロ、と机上を転がるサイコロ。
理事長も私もそのサイコロを見つめる。1、4、5、そしてまた1、と見るからにバラバラなサイコロの数。
理事長はしばらく黙ったあとで「ありがとうございます」と笑みを向けたが、明らかに落胆しているのがわかる。
サイコロごときで理事長を落胆させてしまったなんて、なんだか物凄く複雑な気持ちになった。
理事長は静かにサイコロから視線を私へと向け、再び口を開いた。

「では、今日はこれで終わりです。登校義務がないと言っても登校しても構いませんよ。ちゃんと教室はありますから。それに生徒が1人でも登校しているのなら授業は行われます」

1人で授業を受けるのは少し辛いものがあるから、出来ればもう1人くらい…もっと欲を言えばクラスメイト全員で受けたいものだ。
そう思っているクラスメイトは、どのくらいいるのだろう。
こうなるならもっとちゃんと高校を選ぶべきだったかもしれない。

「……失礼しました」

理事長室から出て、廊下を歩きながら盛大に溜息をはく。
そう落胆しながら玄関を出るときに、物凄い大男とすれ違った。なんだか観察されるようにこちらを見られたので、私はその視線に気付かないふりをしてスタスタと校門へ歩いていく。
これからの学園生活がどうなるのか、考えても何のビジョンも浮かんでこなかった。

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