軍規の鋭い目と、なまえの視線があう。
驚いた表情のなまえと、意味深な笑みを浮かべる軍規。
数秒が経ったあと、なまえはふふっ、と笑みをこぼした。
「ソース、頬についてるよ」
「は!?」
慌てたように軍規は自身の顔を両手で触る。
感触があったのか、頬を触った手の指を見つめた。
そして、不満そうになまえを見た。
「奈布から借りた漫画だとこのあと良い雰囲気になったりしたんだぞ…まったく、なまえはとことん空気が読めない奴だ」
「良い雰囲気になりたかったの?」
「まあそれもいいが…一度言ってみたい台詞というやつだ」
「それ、奈布さんとかにやらないほうが良いよ。絶対勘違いするから」
「ああまあ、それなら大丈夫だろう」
なんだかはっきりしない言い方をする軍規に、なまえは首を傾げる。
軍規は「ごちそうさま」、と小さく呟くと麦茶を一口飲んでから不思議そうな顔をするなまえの疑問に答えるように口を開いた。
「もうアイツは、私に関わろうとしないだろうしな」
「へえ…振られたの?」
冗談で言ったものの、軍規はその発言が不満だったのか軽く眉間に皺を寄せる。
「冗談だよ」となまえが言うと、「わかってるさ」と笑みを零した。
「私が何をしたのかをわからなくても、私が何かをしたらされたほうが関わりたく無いと思うのは当然だろう」
「まあ……否定はしないかな」
なまえは軍規に何かをされたことがないし軍規の異常がどんなものかも知らない。
だけど、軍規が言ったことが事実だろうということはわかった。
だからこその異常。
「それに奈布は、色々と勘違いをしていた」
「勘違い?」
「奈布が私に近付いてきたのは好意だなんてものじゃないのさ。アイツは私が恐かった。私が持つ異常を誰よりも早く悟り、その矛先が自分に向かないように奮起していたんだ。それをいつの間にか好意だと勘違いしていたんだろうよ。奈布は世界が違えば、少女漫画のヒロインのような立場になっていたような人間だから」
「嘘くせー」
「それは私がモテないと遠回しに言ってるのか?」
「さあね」
解釈はご自由に、と笑ってやった。