最後に見たのは、恐怖で脅える2人の表情。
あのあと軍規に力強く抱きしめられてから、私は意識を失っていたらしい。
「おはよう、いや…もう夜だからこんばんわ、だな。お腹は空いてるか?コンビニの弁当でよければあるぞ」
「あ……うん」
じゃなくて。
「ここ何処?」
目がさめたら悪くて保健室、よくて自分の部屋にいると思っていた私は、見知らぬ部屋を視界にいれて首を傾げるしかなかった。
「何処って、私の家だが?」
「え」
ビニール袋からお弁当を取り出しながら、軍規は「知らなかったのか?」とでもいうような口調でそう言い放った。
「な、なんで…でしょう、」
「にひひひ。なんだそれ」
ほら、と差し出されたコンビニ弁当を特にお腹が空いているというわけでもないが受け取る。
軍規用の弁当もあるらしく、もう一度ビニールに手を突っ込んで同じような形状のお弁当を取り出した。
「もう遅いから保健室の先生は帰っていたし、病院につれていくほどの怪我でも無いようだったからな」
あれだけ頭を殴られたのにも関わらずそういうか。
だけど手当てはしてくれたようで、頭には包帯が巻かれ、頭を冷やしていたであろう保冷剤も側に落ちていた。
「ありがとう」
「ん?」
「手当てしてくれたことと―――あのとき、割って入ってくれたこと」
上半身を起こし、足を地面につけて今まで寝ていたソファに深く腰掛ける。
軍規はお弁当の蓋を開けて箸を割ろうとしていたところだった。
「私は仲間を大切にするからな。それが多少押し付けがましいとしても」
そういうと、軍規は綺麗に割り箸を二つに割る。
湯気を立てるハンバーグを丁寧に分け、口の中へと放り込んだ。
私は手にしたお弁当の蓋をゆっくり開け、軍規が食べているのと同じハンバーグを見下ろす。
「仲間か…なんかピンとこないけど、まあ友達ではあるよね?」
軍規を真似て、ハンバーグを箸で切り分け口に含む。
暖めたばかりなのか、ハンバーグもご飯も温かかった。
「友達か。なるほどな」
軍規は楽しそうに笑みをこぼす。
「なまえがこんなに早く目を覚ますとは予想外だったな」
「お弁当あったかいけど」
「一応だ、一応」
にひひひ、と軍規はテーブルの向かい側で笑う。
「もし起きなかったら襲ってやろうかと思ったのに」
「げふっ」
危うく麦茶が鼻から飛び出るところだった。
プールに入っているわけでもないのに、そんな目にあうのはお断りだ。
「怪我人を襲うとかそれでも人間ですか」
「普通の人間ではないけどな」
上手い事言った、みたいな顔でこちらを見られても困る。
今度はちゃんと麦茶を飲み、食事を再開。
「軍規も冗談って言うんだね…」
半分呆れたようにそう呟くと、軍規はその笑みを深くした。
「冗談じゃない、と言ったら……どうする?」