叫びと同時の右ストレートのあと、彼女は息を大きくはいて大きく吸った。
後ろの女の子2人は、暴れている奈布さんに恐れをなしたのか、その場で動けずに恐怖に震えている。
今後ろを振り返っても愛されてるといえるのならば、それはただのバカだよ、と奈布さんみたくあざ笑ってあげたかったけど。
奈布さんは振り返ることもなく、精一杯の殺意と全力の悪意をその視線で私にぶつけてきた。
「なんで学校に来たの…?あなたさえ学校に来なければ、アタシ達は幸せに学校生活をおくれていたのに」
学生がそんなに学校に来ることが不思議ですかねえ、と皮肉ってあげたかったけど、殴られたせいで口が上手く動かない。
というか、頭が滅茶苦茶痛い。
なんなんだこの子。ボクシングでもならっているのか?
「卑怯者」
ボソリと、呪詛のように彼女は呟く。
「卑怯者、卑怯者、卑怯者、卑怯者、卑怯者……」
繰り返し罵倒される。
先ほどの怒鳴り声とは違い、静かに、囁くように。
そして、また頭を叩かれる。
でも、先ほどみたいな強い力ではない。
軽く、コン、という擬音が適切であろう力具合。だがそれもつかの間、段々と威力があがっていく。
もういつ喋れなくなるかがわからなかったので、我慢出来ない程の痛みを無理に我慢して、言いたかった一言を今言うことにした。
「……サボりは駄目だよ、って…言われたから」
「―――は?」
自分でも驚くほど小さな声が、自分の口からこぼれる。
私の頭を殴っていた手が止まり、私の顔を凝視する。
「学校に……来た理由」
「――――それだけ、で?」
絶句していた彼女が、精一杯、力を振り絞って言った言葉。
それだけ?それだけって――何が?
「それだけで!そんな理由で!!サボリは駄目だって言われただけで!!学校に来てアタシの人生をめちゃくちゃにして!ああああああああぁぁぁぁああぁぁあぁぁああああぁぁぁぁぁぁあもう許さない許さない許さない!あなたは絶対に許さない!」
「…………許さない?」
誰が、誰を。
彼女が、私を殴る力を強くする。
頭が、脳みそが揺れる。
許さないって、何を。私は悪くない。私は悪くない。私は。
「アタシはねぇ!!こういう暴力で男はまだしも女に負けたことなんてないし負けることなんてないの!!だからあんたはもうこのまま、アタシの気がすむまで殴り続けられる運命なのよ!!」
負けたことなんて負けることなんてない。
確かに、本当に奈布さんが殴っているのかと疑いたくなるくらい力強いパンチだ。
意識が飛びかける。
もう痛いのか、痛くないのか、わからなくなってきた。
―――だけど。それでも。
・・・・・
だからこそ。
「好都合だ」
酷く滑稽な表情に、反吐が出るよ、まったく。