時間が止まったかのように、空間が静まり返る。
私が言いたい事はあともう1つだけあったんだけど、言える雰囲気でもないのでこのまま帰ることにした。

「それじゃ、また明日」

それだけ言って、彼女達に背中を向ける。
鞄を右手に持って、歩き出す。
後ろから、誰かの叫び声が聞こえて振り返った。
視界を、影が覆う。

「っづぁあっ……!!!」

左肩から頭までを鈍い痛みが走る。
何が起こったのかがわからなくて、痛みでふらふらになった身体は重力に逆らうことも無く床へと倒れ込んだ。
何が起こったのかを理解しようとする頭は痛みで全く機能を果たしてくれない。
再び何かが風を切る音がして、自分の上に影がかかった気がしたので、右手に持っていた鞄を振り回して次の衝撃を流した。
しっかりと握っていたはずなのに、ぶつかった勢いで鞄は遠くへ飛ばされてしまい、何の武器も持たずに私は上半身を起こした。

「ああああああぁぁああぁあああぁぁぁぁぁぁぁあああああぁあぁぁあぁぁぁぁあ!?」

本当に奈布さんの口から発せられているのかと疑うその低い声に、目を見開く。
先ほどの誰かの叫び声は、彼女のものだったのか。
怒りに歪んだ表情でこちらを見下ろし、椅子を両腕で振り上げた。
そうか私はこれで殴られたのか、と思った瞬間、椅子を放り投げた奈布さんが私の上へ跨った。
何度も言うが女の子に跨られて幸せーだなんて趣味は持ち合わせていないため、あまり嬉しくは無い。というか、全然嬉しくは無い。
介抱してくれるのならまだしも、この状況でそんなことありえないだろう。
奈布さんの右腕が、私の頭を右から思いっきり殴った。
ぐわんっ、と本当に女の子の力と疑うくらいな痛み。

「アタシが愛されてない!?あんたがそれを言う!?愛されていなければ好意ももたれない気持ち悪い気味悪いあんたが!!普通の人間のアタシに!!あんたが悪いのに!!あんたが存在するから!ふざけるなふざけんなふざけてんじゃねえよ!!!」

まだ痛みがきかないうちに、二発目。
利き腕の右腕よりは威力が弱いものの、それでもやはり痛いものは痛い。
左側の痛みと右側の痛みが同じくらいになって、左右対称だねーだなんていってる場合じゃない。ていうかそんな場合じゃなくても思わない。

「アタシは世界で一番あんたのことが大嫌いだ!!」

顔面に右ストレート命中!視界に微かに見える赤は、一体何の色だろう?

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