予想の斜め上をいって、本当に愛の告白だった―――なんて少女漫画的展開はやはり訪れなかった。
いたのはこの間私に質問してきた女の子と、一番最初に教室へ入って目をそらした茶髪の子と、なんとなんと奈布さんだった。
可愛い女の子3人に囲まれてキャー幸せ!なんて趣味は生憎持ち合わせていないため、どうしたものかと3人を見つめる、というか主に奈布さんを。
いつもの可愛らしい顔は怒りか何かで歪められていて、可愛い顔が台無しだ、とぼんやりそんなことを思う。
愛の告白でないとしたら、私と友達になってくれるとかいう衝撃の展開かと思ったが、そんな雰囲気でもないらしい。
お腹が空いたので帰っていいですかなんていえる雰囲気でもなく、3人のうちの誰かが口を開くのを今か今かと待っていた。
すると、私が待ちわびていたのを察したのか、痺れを切らしたように奈布さんが口を開く。
「――何か言うことはないの?」
まさかの私待ちだった。
「え?えっとー…今日はいい天気ですね?」
「今日は雨よ」
「ああ、そうだった」
窓を叩く雨音があんたには聞こえないのか、とでもいうように眉間に皺を寄せる奈布さん。
何か話題を提供することになるとは思っていなかったので、まさかの展開にどうしようかと目を泳がせる。
「あなた、この子が言ったこと聞いてなかったの?それとも覚えてないの?」
「言ったこと?」
「『軍規に近付くな』――そう言ったんでしょう?」
それは、私ではなく後ろにいる女の子への質問だった。
女の子は自信たっぷりに頷き、それを見た奈布さんは満足そうに頷き返した。
「私と軍規の関係はこの子から聞いて知ってるんでしょう?だったらもう、学校に来ないでくれる?」
「え?」
なんでそれが学校に来ないことと繋がるんだ、と再び疑問詞を口にする。
彼女はそんな私をあざ笑うように微笑んだ。
「軍規と席が近ければ喋ることになるし、軍規が喋りかければ無視なんて出来ないでしょう?だったら、喋りかけられなければいいのよ。なら、学校に来ないのが一番でしょ?」
なんともステキな意見をおっしゃる女の子だった。
確かにその通りではある。
喋りかけられなければ喋らないし、学校に来なければ喋りかけられることもない。
だけど、まあ、仮にも来年には高校生になる彼女に、世の中が自分の思い通りにいかないのだということを私の存在をもって教えてあげよう。
そのほうが彼女のためになるのだ、きっと。
だけど先に謝っておくよ。
「壊れちゃったら、ごめんね」
「は?」
私は悪くないけど。
「あなたは誰にも愛されてないよ。後ろの子2人にも、そして軍規にも」
それが、私が初めて軍規の名前を口にした瞬間だった。