予想していなかったといえば嘘になるが、思っていた以上に早かった。
「おう。今日も学校来てるななまえ。おはよう」
「おはよう…って、何それ」
「いや、奈布からなまえが不登校児だったということを聞いたので学校に来るようになったことに感心していたんだ」
「ふぅん……」
ということは、それ以外も聞いた、ということだろう。
なのにいつも通りの笑顔で接してくるなんて、変なの。
興味があるのだろうか。
まあどれにしても、私にとってはどうでも良かった。
「それになまえがもし来なかったら私は教科書無しで授業を受けなくてはいけないからな」
「いや持ってきなよ」
そんな何回もしたような会話をして、ゆっくりと席に座る。
椅子の上に何も置かれていないかを確認するのはもう癖として身体に染み付いてしまったので、何も無い最近であろうとそれをしないことはない。
安全を確認して座り、鞄を静かに机の上に置く。
「体育も偶然同じチームだし、1人でも抜けたら穴を埋めるのが大変だ」
あれは偶然というか、軍規が「なまえは私と同じチームだな!」と言ったからそうなっただけで。
軍規に誘われず自分から同じチームに入った奈布さんが私を睨んでいたことなんて、軍規はきっと知らない。
奈布さんはなんだかんだ器用だからなあ、可愛いし。
「そうだね」
適当に返事をして、鞄から教科書を取り出す。
このまま何事も無く楽しくもつまらなくもない学生生活を過ごせるのならもう不登校になることもないんだろう。
だけどそんな考えも空しく、引き出しに教科書を入れようとする途中で、紙の感触が手の甲を撫でた。
こっそりそれを取り出して中を見ると、綺麗に6つの文字が並んでいた。
「明日からもちゃんと学校に来いよ、そうじゃなきゃ私がつまらない」
「いやあ、もしかしたら明日からインフルエンザにかかるかもしれない」
「なんだそれ」
視線を不審に思われないように、教科書を見ていただけのように視線を笑う軍規へと戻す。
そして、紙に書いてあった文字を頭の中で繰り返す。
【放課後教室で】
あれもしかして愛の告白?、なんてありえない考えを冗談で思ったりして、その紙を軍規に見えない位置でぐしゃぐしゃに丸めた。