学校帰りのことだった。
何の気なしに、ふらふらといつもと違う道を歩いていた。
左には大通り、右には大きなお店がいくつも。
なまえは道の先の一点を、じーっと見つめている。
その視線の先に居たのは、同い年くらいの男の子だった。
寒い季節でもないのにマフラーをしていて、なまえから見える顔の右側は肩までの長い髪で見えなくなっている。
学制服を着て鞄を持っている男の子は、どう見ても学生だった。
だが、なまえは学生がいるからという理由でその学生を見ているわけではない。
その学生は店のウィンドーに顔を密着させて、中を凝視していたのだ。

「…………………」

中の店員さんはどうしたものかと学生を見ながらざわめいているようで、なまえは関わらないようにしようとこっそり学生の後ろを通り過ぎようとした。
したのだが。

「あの、もしかしてもしかすると今暇だったりしますか?」

「…………………」

絡まれた、となまえは内心物凄く嫌な顔をしていた。
だが相手がどれだけ危ない人間なのかわからないのだから、ここはうまく相手の機嫌を損ねない程度に話を聞いてさっさと切り上げよう。
なまえはそう決意し、口を開いた。

「いえ、少し急いで――「もし良ければ私と共にお店の中へ入っていただきたいのですが」――て、」

人の話を遮る学生は、どうやら人の話を聞かないタイプの人らしい。
それとも興奮している今だけこうなっているのかはわからないが、とりあえずなまえはもう面倒そうな顔を隠そうとはしなかった。

「私、百町破魔矢なる者です」

いきなり自己紹介してきやがった。

「私、車が大好きなのですがなにぶん1人でお店に入るのは初めてなので…もし良かったら一緒に入っていただきたいのです。勿論、それ相応のお礼はします」

百町とかいう学生は、そうなまえへ言うとなまえの手を握って意見も聞かずに店の中へと入っていった。
それからは百町の車についての質問と引き気味の店員の答えという質疑応答が繰り返されるだけ。
車に全く興味が無いなまえは、こうなるなら1人で入れたんじゃないかと呆れたようにぼーっとしていた。そしてなまえが解放されたのは、3時間後だった。

「たくさんの車に乗れて触れて…やっぱり欲しいですねえ」

「………………」

疲れきったなまえのことなどお構い無しに、百町は興奮気味に店を振り返る。
辺りはすっかり暗くなってしまっていた。

「今日は付き合っていただいてありがとうございました。お礼といってはなんですが、夕飯でもおごりますよ」

ファミレスでよければ、というが、中学生でファミレスを奢るだなんてどれだけお金を持っているのだろうとなまえは驚いた。
それはありがたいことだったが、もう心身ともに疲れきっていたなまえは「お礼なんていいですから、」と遠慮する。
百町は納得いかないといった表情を浮かべ、「そういえばあなたのお名前は?」と思いだしたように聞いた。

「名字なまえです」

そう言ってから、見ず知らずの学生に本名を言って良かったのかと疑問に思うが、まあいいかと思考を停止する。
「名字さんですか」と眼鏡のレンズごしに微笑む瞳を見て、いくらなんでもファミレスで奢ってもらうのは悪いな、と思い直す。

「もしまた今度どこかで会ったら、そのときに奢ってもらいますよ」

少しだけ不満そうな学生に背中を向け、なまえは今度こそ帰宅する道を歩き出した。



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