気に食わない。気に入らない。
自分だけが世界の全ての不幸を背負ったみたいな顔をして、学校にろくに来てなかったあいつがいきなり現れて。
男子にも女子にもアタシ以外には呼ばせてないのに、平然と名前を呼んで。
なんで否定しないの?なんで受け入れてるの?
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
人生を自分を人間を諦めたような顔をして、それでも人と馴れ合って特別扱いされてそれを受け入れて。
結局不幸だなんだとか過去がどうだとか背負って助けなんていらないとかいいながら、周り全てをもっていくくせに。
こんなに頑張ってるのに。どうして頑張ってもいないあいつが持っていくの?不公平。
あいつさえいなきゃ、あいつがいるから。あいつが悪いんだ。全部、全部全部全部。あいつが悪い。あいつしか悪くない。間違ってる。こんなの絶対正しくない。
へらへら笑って、名前を呼んで。
うるさい、あいつ。
×
教室に入ったら、自分の席がなかった。
――いや、物理的な意味ではない…いや、物理的な意味なのだろうか、この場合も。
奈布さんが座っていた。
そして隣には、またもや胸をはだけさせている軍規の姿。
楽しそうな笑みをうかべて、まず最初に軍規が口を開いた。
「おう、おはようなまえ」
「おはよう」
「……おはよう名字さん」
軍規が言ったので言うしかなかったといった表情の奈布のことなど気にせず、なまえは音を立てずに鞄を机の上に置く。
奈布がどく気配を見せなかったのでなまえはぼんやりと机の前に立っていた。
「奈布、どいてやれ」
「えー、軍規ともっと話してたいな」
「立ったままでも話は出来るだろう」
立ち上がる瞬間、軍規に見えない角度でこちらを睨み付ける奈布さん。
器用な子だなあ、と少しばかりその行動に感心した。
「ほら、空いたぞ。座れなまえ」
「あー、うん。ありがとう」
どいてくれた奈布さんとどかしてくれた軍規にお礼を言い、ゆっくりと席に座る。
別に学校への道のりで疲れるほど歳でもないので別に座れたからといって体力が回復するとかそういうものではない。
ただ昨日の話を聞いて、二人の邪魔をしてしまったかな、と後悔した。
後悔したからといって、別に反省する気はないのだけれど。