「お?お前、どうして奈布の席に座ってるんだ?」
なまえが一番前の真ん中の席について鞄の中身を出していると、登校してきた軍規に不思議そうな目で見られた。
なまえは「あー、」と言葉を探していると、後ろから声。
「名字さんが授業を真面目に受けるためにそこの席がいいっていうから、かわってあげたの」
先ほど、なまえに話しかけてきた女の子だった。
なるほど、彼女は奈布というのか、となまえは彼女の名前を確認する。
まあ別に席などどこでもいいので、なまえはそういうことにしておこうと何も言わずに鞄を閉じた。
「そうか!なるほどな……」
そこで軍規は何か考えるように首を傾げる。
いかつい風貌な彼がそんな行動をとると何かギャップを感じるな、となまえはぼんやりそんなことを考えていた。
「ならばお前!もし良かったら私と席を交換してくれないか?」
「え!?」
「ちょっと軍規!?」
なまえの隣の席に座っていた小柄の男の子が驚いたように目を見開く。
だがそれ以上に驚いていたのは奈布だった。
軍規と喋るときのような甘ったるい声ではなく、本気で驚いている声が彼女の口から飛び出したのだ。
「私も丁度勉学に励みたいと思っていたときだ。丁度いい。もしお前がよければ席を交換してくれないか?」
「え、いやまあ…いいけど……」
「な、なんでよ軍規!勉強ならアタシが教えてあげるのに…」
「なまえにわからないことがあれば何でも聞いてくれといったのは私だからな。席が隣の方が都合がいい」
「なまえ……って、」
奈布は顔をくもらせ、軍規がなまえへ微笑んでいるすきになまえを睨み付ける。
だがなまえはどちらの表情も気にせず、ふわあ、とあくびをした。
隣の席に座っていた男の子は、いつの間にか席をかわってしまっている。
軍規は普段からそこが自分の席であるかのようになまえの隣へと着席した。
「なまえ、早速だが教科書を見せてくれ。なにぶん私は転校生なので教科書を家に忘れてきた」
「いや持ってきなよ……」
奈布の鋭い視線など気付いていないようになまえは呆れ気味に呟いた。