なまえはまた病院へ来ていた。
この前勝手に外出したことはバレていないので、どうしてどこも悪くないのに此処へ来たのだろうとなまえは考える。
約束を破ったから病院へつれてこられたのかと思う思考回路は、なまえがちゃんとした病院の定義を知らないからであった。

「こんにちわ、なまえさん」

「あ。ちょーがさきくん」

ロビーの椅子に座っていたら、見覚えのある人物がなまえへと声をかけたのだ。
眼鏡をかけ、ゲーム機を片方の手に持っている男の子は、前に此処で出会った蝶ヶ崎という男の子だった。

「隣いいですか?」

「うん!おいで!」

蝶ヶ崎は、なまえの年相応の幼さに何故か安心した。
診断をする医師や、周りにいる大人はどうも子供に話しかけるような感じでは話しかけてこないし、この病院に来る子供は誰もがどこか擦れていて何かが外れているからかもしれない。
普通の女の子がいるとしたら、こんな感じだろうか。
とそこまで考えて、蝶ヶ崎は驚いた。

「(普通の女の子だとしたら…こんなところに何回も来るはずが、)」

じっとなまえを見つめるが、当たり前のように答えは出ない。
なまえは首を傾げ、「すわらないの?」と訊く。
蝶ヶ崎は一瞬驚いたあと、笑顔で「座りますね」となまえの隣へ腰掛けた。

「それ、またてとりす?」

「ええ。……やりますか?」

「え!?良いの?」

自分の提案に一瞬嬉しそうな顔をしたあと、機嫌を伺うようになまえはゲームを指差す。
だが、やりたいという好奇心を隠しきれていない。
そんななまえに笑いながら、蝶ヶ崎はゲームの電源ボタンをおした。

「どうぞ」

ゲームをなまえに渡して、簡単に操作方法を教える。
なまえは実際にやりながら、蝶ヶ崎に「どのぼだんだっけ?」などと質問しながら、テトリスをやり続ける。
自分ほどスムーズにはいかないが、それを見ているだけで何故か蝶ヶ崎の口元に笑みが浮かぶ。
そして。

「あーあ、おわっちゃった」

「残念でしたね。でも、結構良いところまでいってましたよ」

「ほんとう!?やったーほめられた!」

心底嬉しそうに、なまえは蝶ヶ崎へと微笑む。
蝶ヶ崎は面食らったように目を見開き、ゲームオーバーの画面を見つめるなまえから視線を逸らせない。

「ありがとう、蝶ヶ崎くん」

「あ、あの、なまえさん」

左手の人差し指で自身の頬をかきながら、蝶ヶ崎は口を開く。
なまえはゲーム機をしっかりと持ちながら、首を傾げた。

「その、僕のことは蛾々丸と呼んでくれませんか?」

「ががまるくん?いいよ!」

それからなまえが看護婦に呼ばれるまで、蝶ヶ崎がやるテトリスをなまえがずっと見ているという不思議な光景がそこにはあった。




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