なまえと名乗った彼女は、不思議な人間だった。
王である俺の腕を引っ張り連れまわし、ドロだらけになるまで遊びたおしたのだ。
使い方がわからなかった遊具も自分達で勝手に遊び、彼女は始終笑っていた。
こんな姿で、しかも喋らない俺といて、これだけ笑顔になるなんて、彼女は一体何なのだろう。
そして、辺りがほんのりと赤く染まる頃。
彼女は慌てたように口を開いた。

「ああああ!もう5じ!?」

俺は突然の声に驚き、彼女と共に作っていた砂の山を少し崩してしまう。
彼女はどうやら公園に設置されている時計を見て驚いたらしかった。

「ど…どうしよう、いそいでかえらないと……」

泥だらけの手や足、そして洋服を見て絶望したように彼女はうなだれた。
どうやら彼女には家族がいるようで、急いで帰らなくては怒られてしまうらしい。
あれだけ気にせず遊んだのだから、洋服も汚れるに決まっている。

「いっしょにあそんでくれてありがとう!」

彼女は立ち上がり、近くに置いておいたリュックを背負う。
俺も触っていた砂山から手を離して立ち上がる。

「またあそうぼうね!」

そう言って彼女は立ち去った。
俺は彼女の姿が見えなくなるまでその背中を見送る。
そして見えなくなってから、自身が触れていた砂山を見下ろした。

「("また"………か、)」

俺はその砂山をそのままにして、目を瞑る。
もうこの街にいるのはやめよう。
彼女といると、自分が王ではなくなる気がして。
もう遊ぶことも会うことも、無いようにしようと心に決めた。
だけどどうしてか、そう決めた瞬間、家を出たとき以上の何かが心のどこかに波紋を広げる。
空っぽになってしまった心に反響するように、虚しさばかりが募るだけ。
俺は作り上げた砂山を、自身の足でまっさらな平地へと乱暴に戻した。
心に宿る奇妙な感情を、消し去ろうとするように。





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