7月17日。リコール発動及び生徒会戦挙開催決定。
7月15日。庶務戦。
8月1日。書記戦。
8月8日。会計戦。
8月15日。副会長戦。
そして、8月22日。会長戦当日。
怪我をしたメンバーを除いた全員が、1つの教室に集められていた。

「それでは、お時間になりましたので生徒会戦挙会長戦を執り行ないます」

いつも通り、冷静に淡々とそう述べるは長者原融通。
その場に集められた彼らは、それを静かに聞いている。

「生徒会側から出馬されるは黒神めだか様。新生徒会側から出馬されるは不知火半袖様でございます。どちら様も悔いの残らぬようベストを尽くしてくださいませ」

「はぁ〜い。『喰い』の残らぬよう、ね」

長者原の言葉に、名を呼ばれた不知火はその腕に抱えた容器に入っている大量の食べ物を口に運びながら笑みを浮かべた。
そんな不知火の様子を見ながら、名瀬はジロリと善吉へ視線を移す。

「…なあ善ちゃん。あの不知火って奴、お前の友達なんだろ?今更だが教えとけよ―――あいつって戦える奴なのか?」

「……戦えませんよ」

名瀬の当然の問いに、善吉は考える素振りも見せず首を横に振った。

「たぶんかぶと虫より弱いです。つーか、そもそもあいつがこの場に来たこと自体に俺は驚いてますね」

どんなときでも裏方に徹し、暗躍を好み、表舞台にはほとんど立たない。
それが不知火半袖だと、人吉善吉は名瀬へ言い切る。

「ただし、今はあの通りマイナス十三組に属してはいますが、俺は不知火半袖という親友が負けるところを見たことがありません」

「弱くても負けない、ね…」

どうあれ球磨川を相手にするよりは遥かにマシだと、名瀬の視線は球磨川へと動く。
球磨川は普段にも増して何を考えているかわからない表情を浮かべていたが――決して笑ってはいなかった。

「それでは恒例のくじ引きでございます。不知火さま、会長戦のルールを決めていただきますので、用意された十三枚からお好きなカードをお選びください」

ここまでの流れは、今までの戦いの中で見てきたものと同じである。
しかし、不知火はその場から動かなかった。
口に含んだ食べ物を一旦飲み込みはしたものの、未だに食べ物を手にしている。どうやら、食事を終える気はないらしい。

「いえ」

不知火は笑みを浮かべる。

「選びません。あたしは、戦うつもりはありませんから」

そして、そう、はっきりと戦う意思がないことを主張した。

「そして、あたしの代理で会長戦を戦う生徒として、黒神めだかと戦う過負荷マイナスとして――マイナス十三組のリーダー、球磨川禊先輩を推薦します」

不知火以外の全員に、衝撃が走る。
どうやらその驚きを見る限り、マイナス十三組である球磨川すら不知火の考えを知らなかったようだ。
勿論、名瀬や古賀はそんなものは認められないと抗議の声をあげる。それは確かに、最もな主張だ。
しかし、不知火は静かに名瀬たちへ視線を向ける。

「…じゃあ古賀先輩、あなた達は納得できるんですか?」

「納得…?」

「黒神めだかと戦えばあたしは多分負けますけれど、その時、あなた達は『マイナス十三組に勝った』って心から思えますか?それに、あたしが負けたせいで生徒会戦挙に負けたからって、マイナス十三組が引き下がると思いますか?」

それは、庶務戦で古賀がめだかを引きとめた言葉に似ている。
というよりも、同じようなことを別の立場から言っているだけだ。故に、古賀は不知火の言葉に何も言い返せなかった。

「どーせ生徒会戦挙なんて建前であり口実でしょ。突き詰めたところ、生徒会役員のポストに本気で固執してる奴なんてひとりもいない。だから、あなた達がマイナス十三組から学園を守るためのこの戦いは、黒神めだかと球磨川禊が決着をつけない限り終わらないんですよ」

それがお前の企みか、と善吉も笑みを浮かべていた。
怒るでも恨むでもなく、黒神めだかと球磨川を戦わせるためだけに裏で色々動いていた不知火半袖という親友は、自分の知っている親友だと喜ぶかのように。
不知火の言葉には説得力があった。確かにそうだと誰もが納得した。
されど、彼だけは―――長者原融通だけは、立場上、この場に水を差さなければならない。

「…お待ちください不知火さま。貴重なご意見は承りましたが、しかし。選挙管理委員会としては、あくまでそんな横紙破りを認めるわけにはいきません」

「でしょうね。いや、冗談抜きで―――あたしはあなたが一番の難関だと思ってましたよ」

その言葉は本当だった。それでこそ選挙管理委員会で、だからこその長者原だ。
だから当然、手は打っている。不知火半袖に抜かりはない。

「生徒会戦挙の執行に関してのみこの通り、この不知火に全権を委任していただきました」

不知火が長者原に差し出したのは、選挙管理委員会委員長である太刀洗斬子からの委任状である。
堅物の太刀洗を口説き落とすのに一ヶ月以上かかったと不知火は簡単に言うが―――その暗躍はいち生徒が出来る範囲を超えていた。
期間限定とはいえ、不知火は今、長者原の上司である。
その決定に、副委員長の長者原は従うしかない。

「…でも、あたしは思うんですよ」

「………………?」

これで不知火の出番は終わりだと思っていた善吉たちは、そう言葉を続けた不知火に疑問を持つ。
先ほどまで浮かんでいた笑みが、スッと消えるのを彼らは見た。

「登場人物はこれで終わりじゃない。だって球磨川先輩がこの学園にきた理由は1つじゃないんですから」

不知火の手から、委任状の紙が離される。
ヒラヒラと揺れながら地面に落ちたその紙の他にもう1枚。委任状の後ろに、それは存在した。

「あたしが委任状を貰い、球磨川先輩を推薦する代わりに、生徒会側は会長戦において"1人"、補助役を推薦できるというものです」

「補助役だと?」

「実質2対1ですね。ただし、補助役がルールの上負けたとしても勝敗になんら影響はありません。だからこその"補助役"です」

「球磨川と黒神の一騎打ちだと言っていた割には、おかしな条件だな」

「一騎打ちだなんて言ってませんよ。でも、やっぱり足りないんです」

名瀬は包帯の下で怪訝な表情を浮かべていたが、それは彼女だけでなく他の生徒会メンバーもだ。
マイナス十三組は表情を変えることは無かったが、不知火の出方を伺っているのは同じである。

「ただし、『どの委員会にも属してない箱庭学園の生徒』が条件です」

不知火がチラリと真黒を見れば、そういうことかと真黒は眉間に皺を寄せた。
補助役であるのだから自分が出るのが適役だろうと思っていた真黒だが、先手を打たれてしまっては仕方がない。

「…なるほどな。そして、その補助約を選出する権利はこちらにあると」

めだかの言うとおり、不知火が読み上げた文章には『ただし、以下に記載された者は補助約を名指しすることはできない』という文章が、マイナス十三組の名と共に書かれていた。

「そうなんですよ…"委員会に属してない"かつ"数分以内に戦挙に参加できる位置にいて"、"球磨川禊に対抗できる"及び"黒神めだかと渡り合える"人物なんていますかね?」

「まさか―――!」

「!?長者原先輩、誰か知っているんですか?」

そう訊ねた人吉は、長者原に視線を向け一瞬だけ動揺した。
何故か――あの長者原が動揺しているように見えたのだ。無理もない。
顔の半分は布で覆われているが――人吉は、長者原の顔が青ざめていっているような気がしていた。
そして、それは気のせいではない。
震える唇で、長者原は必死に言葉を紡ぐ。

「いけません不知火様。それは……彼女は関係ないでしょう」

「"関係ない"から参戦できるんですよ?ここにそう書いてあります」

雲仙冥利も、鍋島猫実も既に生徒会戦挙を見に学園へ登校してはいない。
球磨川は相変わらず表情を崩さなかったが、その後ろで蝶ヶ崎と飛沫はそういうことかと気付いているようだった。
わかっていないのは、現生徒会のメンバーのみである。

「わからないなら教えてあげますよ。いつも"仲間外れ"にされて可哀想な名字なまえ先輩です。名前くらいは聞いたことあるでしょう?」

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