都城王土はひとり路上で生きていた。
泥水をすすり木の根を食べ屑籠を漁りながら生きつつも、だけど彼はそんな生活を恥じたことは今日まで一度もなかった。
なぜなら彼は既に己を王だと認めていたからだ。
他人を意のままに操る異能。
他人の個性を意のままに取り立てる異能。
世界を支配するためにあるとしか思えない、そんなふたつの異常性を彼は使うまでもなく認識していて、しかし彼はそれらを王としての資格ではなく王としての試練だととらえていたのだ。

「(偉大なる俺はまずこの【支配】という異常性を支配しなければならない)」

六歳の都城王土は、そう考えていた。
間違ってもこの強大すぎる力に溺れてはならない。
力に使われるようなことがあってはならない。
それは彼にとって義務ではなくもはや指名だった。
さしあたって彼は両親を捨てた。
ごく普通の一般人である彼らがもしも息子のそんな異常性を知ったならば、それをどう低俗に利用するか想像に難くなかったからだ。
家を出るとき少しだけ悲しかったけれど、しかしだからといって両親の心を操るなど彼の良識が許さなかった。
世界を平和にするため、民衆を幸せにするため。
それ以外の用途で彼は己が支配性を発揮するつもりは一切なかったのだ。
そうしていつもの通り、路地で静かに座っていただけなのに。
その日だけは、"いつも"と違った。

「!?」

突然現れた女の子が、彼をじっと見つめているのだ。
不思議そうに、警戒もなく。
都城王土は慌てた。
動かずじっとしているものの、内心ではこの女の子が一体何者なのかと彼女を見つめることしか出来ない。
そして彼女の表情が一転し、その口を開いた。

「い、いっしょに!」

可愛らしい声に、彼は少し警戒しながらも彼女が近付いてくるのを許す。
目の前にいるのは人間であるに違いないくせに、初めて見た生物に遭遇しているような気分。

「いっしょにあそびましょう!!」

「………………」

まさかの言葉に、彼は絶句した。
王である自分に、王である試練をしている自分に、こんな命令のような言葉を言う彼女の存在に。
唖然としていると、彼女は自身のリュックを漁り、中から何かを取り出す。

「こ、これあげる!だからいっしょにあそぼう…」

何の反応も示さない彼に戸惑ったのか、後半の声が小さくなってしまっている。
差し出されたペットボトル。
中にはジュースが入っていて、蓋は開いていない。
自身で飲もうと思っていたものなのだろう。
彼はそれが王へ捧げる貢物なのだろうと受け取る。
自分は他人から物をもらえるほどまでこの異常性をコントロールできたのだと、少しだけ喜んだ。
そして彼女も、王土がそれを受け取ったことにより、遊びの誘いを受けてくれたのだと思い喜んだ。

「じゃあ、あっち!」

「!?」

突然腕をひっぱられ、都城王土は驚きつつも彼女についていくことにした。
到着した場所は、神社のそばにある公園だった。
都城王土も此処へは一度来たことがあるものの、遊んだことはない。
静かな公園に、唖然と彼は立ちつくしている。

「えへへ。わたし、ともだちとあそぶのはじめてだから、なにしてあそんだらいいのかわかんないや」

「……・・・……」

そう困惑したように笑う彼女に、王土も何も言えない。
六歳で家を飛び出した彼も、勿論公園で遊んだことなどないからだ。

「んー、あ、これならみたことある!」

自身が住む家の庭にある滑り台と違う色のものを見つけ、彼の腕を引っ張ってそこへと近付く。
王土は困惑しつつも、彼女の遊びに付き合うことにした。



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