「おーい宗像、いるか?」

場所は地下2階。
宗像形に割り当てられたエリアでは無かったが、今この時間、彼なら此処にいるだろうと高千穂は和風庭園に足を踏み入れる。
なまえは先程までの殺風景な迷路とは全く違うそこに驚きながらも、高千穂の後に続いた。
行橋はここに来たことがあるのだろう。特に驚くこともなく至って普通に足を踏み入れていた。

「…………なんでここに名字が?」

「あぶなっ!お前な、いるなら普通に出て来い」

高千穂が立って居た場所には数本の刃物が突き刺さっており、避けてからそれに気付いた高千穂は呆れたように刃物を投げた本人を見る。
刃物を投げた本人である宗像は全く悪びれている様子も無く、高千穂や行橋でなくなまえのことをじっと見ていた。

「お前のことを探してたんだとよ。武器はもうちゃんと仕舞えるようになったんじゃなかったのか?」

「……何の話だ?それに、わざわざここにつれてきたのか?」

どうやらここにある草木たちに水をあげていたらしく、その右手には柄杓が握られており、左手では水の入った桶を持っている。
だとしたらどうやってこの刃物を投げたのだろうかとなまえは地面に突き刺さっている刃物をチラリとだけ見たが、普段だってどのように凶器を使いこなしているのかわからないのだから、それを見ただけでわかるはずもない。
なまえは大人しく自分の用を済ませようと口を開いた。

「宗像くん。これ、落ちてたよ」

「え?ああ。ありがとう」

なまえが差し出した銃を、宗像は何の躊躇いもなく受け取る。
宗像はカチャカチャと受け取った銃を触り(なまえはそれが何をしているのかまったくわからなかったが)、納得がいったのか自身のどこかへ仕舞いこんだ。

「そういえば、ここってどういうところなの?」

「………………………」

「………………………」

高千穂と宗像が黙る。
そしてゆっくりと、なまえの後ろにいる行橋を見た。

「あはは。いやだな。ボクが彼女にそれを喋るわけないだろ?」

「なのに連れて来たのか?」

「なんだ。キミたちは彼女に"教える"のに反対なのか?それとも、"知られたくない"?」

「そうじゃない。それは理事長の」

「無関係じゃないんだ。どうせ知ることになる」

なまえは3人の会話に入れず、どうしたものかと彼らの顔を交互に見ていく。
そんななまえに気付いたのか、高千穂は困惑したように息を吐いた。
宗像も行橋へ不満を持っているようだが、特に何も言わない。

「『フラスコ計画』―――きいたことは?」

「…………"計画"?」

またその単語か、となまえはふと思い出す。
去年、その単語を何度か聞いた。しかも"普通"ではない状況で。
それがここと何か関係があるのだろうか、となまえは先程の迷路と門、そして行橋が触れることのなかったエレベーターを思い出す。

「それを説明しようと思ってキミを案内してるんだよなまえ。じゃあ、キミの目的は果たしたわけだし先に行こうか」

「え、でも」

「それとも、その疑問の答えは知りたくない?」

なまえは本来、日之影を探していた。
それをまさか"覚えていない"わけはない。
しかし、あのときみたいに急いでるわけでもない。
なまえは――――選択する。

「………うん」

なまえは、行橋の言葉に頷いた。
行橋はその仮面の下でどんな反応をしたのかわからなかったが、静かに歩き出す。
が、数歩歩いて後ろを振り返った。

「……?ついてこないの?」

「まだ水やりが終わってない」

「俺も自分のエリアに戻るかな」

てっきり2人もついてくると思っていたのか、行橋は2人のその反応に少し驚いたように息をのむ。
しかしまあ、面倒なことは少しでも減ったほうが良いと特に2人をついてこさせようとはしなかった。
だがまさか。異常アブノーマルを相手にして、そうすんなりと事が進むとは――――努々思わないべぎだ。

「そうか。なら私は一緒に行こう」

そう、同行を告げたのは、地下二階エリアにいる本来の人物――――糸島軍規だった。

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