ぼんやりと足を進めたものの、その向かう先は剣道場では無い。
かといってなまえには目的地がないので、ただふらふらと学園内を歩いているにすぎなかった。
遠くでは運動部が部活動を行っているのか、掛け声のようなものが聞こえる。
この付近は花壇などがあるので園芸部の活動範囲だろうかなどと考えながら花壇を見て。

「………………………」

銃が落ちているのを発見した。

「これって、」

普段、というか普通の生活を送っていたらまず見ることがないであろうそれ。
一般家庭にも銃がある海外の国や猟師の家系ならともかく、ここは日本のなかのありふれた学校の1つである。
そんな学園に、一体どうしてこんなものが落ちているのか。
なまえには心当たりがあった。

「届けてあげよう」

三年十三組、宗像形。
彼の物であるということ以外、考えられない。
しかし―――どうしたものかと銃を拾う。
彼の所属する三年十三組は空っぽだった。というか、彼が授業に参加したのは二年のあのときだけだったし、今年度になってからなまえは宗像を見かけたことがない。
それにどうも部活動に所属しているわけでもないようなので、どこにいるのかが全くわからなかった。
そもそも学校に来ているのか、という疑問が浮かんだが、まあこうして彼の持ち物が落ちているわけだし、この学園のどこかにいるのは明白で―――

「あ」

そこで、なまえの視線はある一点で止まる。

「…………………」

見覚えのある、小さな後姿。
行橋未造というその名をなまえは知らないが、彼もなまえと同じ三年十三組に所属している。
何を思ったか、なまえはその後姿に声をかけようと足を踏み出した。
しかし先ほど言った通りなまえは行橋の名を知らない。
どう声をかけようか迷っている最中、行橋はどんどんと足を進めてしまう。
その小さな身体でどうしてこうも早く歩けるのかなどと考えながら、なまえは行橋に追いつこうと進む速度を速めた。

「あ、あの!ねえ!」

一向に差が縮まらないので、痺れを切らしてなまえはそう声を出す。
しかし―――聞こえていないのだろうか?行橋はピクリとも反応せず、行き止まりを右に曲がった。

「え、えええ…」

結構大きな声を出したつもりであるし、ここは先ほどの場所とは違って人気もなくかき消される心配もない。
それでも届かなかったというのは、行橋の耳が悪いのか、それとも単に面倒だからと無視しているのか。

「………………?」

なまえも、行橋が曲がった場所を右に曲がる。
しかし、そこには彼の姿は既に無かった。
なまえは静かに立ち止まり、じっと正面を見つめる。
既に工事中の立て札はなくなっていた。
止めていた足を進め、なまえは何となくそこに向かって歩いて行く。
―――箱庭学園時計塔。

「…………………」

二年間この学園に通っているなまえでさえ、時計塔の中に足を踏み入れたことはなかった。
去年あの一件でたまたま近くに来たことがあるだけで、それまでは近くにすら来たことがない。
人がいる気配はないようだった。
だがなまえは進む足を止めようとはしない。
中へ続く扉を開く。不思議と、鍵はかかっていなかった。

「「え?誰だい君は」」

突然、そんな声がして顔を上げる。
知らない顔だった。

「何してるの?」

彼らへ向けた第一声。
それはこちらのセリフだとでもいうように、彼らは互いの顔を見合わせた。

「それはこっちのセリフさ。新しい参加者なんて僕達は聞いてない」

「それにそっちのセリフは、きっとここが何か知らずに来たんだろ」

「?」

髪色は異なる。しかし、喋り方や仕種、そして何より顔が全く一緒だった。
そんな二人となまえは向かい合い、お互いの出方を伺う。
なまえは二人を見たことが無い。それにどうやら"珍しく"なまえのことを知らないらしい。

「でも、そうだな。君が誰であれ、」

「僕達の役目は果たさないと」

そう言うと二人は冷静を取り戻したかのように持ち場に立つ。
なまえはそこで初めて、彼らの後ろに扉のようなものがあることに気付いた。
と言っても、普段見ているような扉ではない。
高さは天井まであり、高校にある扉にしては頑丈すぎる。
何かを守っているのか―――それとも出さないためか。
一瞬監視カメラかなにかあるのでは、と天井を見上げたなまえだったが、見つけることは出来なかった。

「「いらっしゃいませ」」

二人はきれいに声を揃えて歓迎の言葉を述べる。

「僕は二年十三組、対馬右脳」

「僕は二年十三組、対馬左脳」

「(双子………?)」

顔もそっくりで、名字が同じ。
つまりは二人は双子なのだろう。
どちらが兄でどちらが弟などなまえには予想が付かなかったが、彼らもそこまで自己紹介するつもりはないらしい。

「僕達はただの門番さ」

そう、右脳が言う。

「「ただの普通の異端児アブノーマルさ」」

そう、二人で言う。

「この先に行きたければ僕達を無視して素通りしてくれて構わないよ」

そう、左脳が言う。

「「ただし勿論、この『拒絶の扉』を通ることができたらだけど☆」」

そうして二人が同時に指し示すのは後ろの扉。の真ん中にある電子錠。
そんな電子錠を不思議そうに眺めているなまえに気付いたのか、二人は顔を見合わせることもなく息を合わせて説明を始める。

「見ての通りだ。6桁の暗証番号を正しく入力すればこの扉はあっさり開く」

「一度に通れるのは一人ずつ!一人通るたびに番号は変更される!」

「通れる確立は百万分の一!百万人に一人しか通さない!ゆえに拒絶の扉!逆に言えばその程度の確率もクリアできない人間はこの先に進む資格がないと言うことさ!」

覚えたのか考えたのか。その口上を自信満々に述べる二人。
対し、なまえは未だ不思議そうに二人を眺めていた。
そんななまえに、二人は今度こそお互いに顔を見合わせる。

「そういえば、君の紹介がまだだったね」

「君は誰だい?制服を見る限りこの学園の生徒ではありそうだけど」

誰かもわからないままこの扉の説明をしたのは、彼らに警戒心がないからか、それとも"ここ"に来た時点で隠し通す必要がないからか。
ただ二人は目の前のなまえに興味があるような、それでいて特別視はしていないような、そんな視線で観察していた。
そしてなまえはかなり遅れた自己紹介を二人にする。

「私は三年十三組、名字なまえだよ」


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