「あれ?」

名字なまえは三年十三組の教室に繋がる扉を開き、首を傾げる。
どうやら目的の人物が見当たらなかったようで、どうしたものかと開きっぱなしの扉から教室内をじっと見つめた。
今は確か授業中のはずだ。まああと数分で放課後になるのだが、"彼"が授業を受けていないというのは珍しい。

「(……………というか……)」

初めてのことじゃないだろうか、となまえは黒板に大きく書かれた『自習』の文字を一瞥した。

「う〜ん」

首を傾げ、思い当たる理由や居場所を考える。
他の教室→授業中の他の教室に行く意味は無いはずだ。
生徒会室→生徒会長が変わったのだからもう行くことはないだろう。
家に帰った→"彼"が早退することのほうが有り得ない。
となるとどうしてだろう、となまえは一歩、教室に足を踏み入れた。

「………………………」

やはり誰もいない。
"彼"がその気になれば誰からも"見つからない"ことなど容易に出来るだろうが、それでもなまえは"彼"を見つける自信があった。
しかし、誰もいないのだ。
教室は空。これがあるべき十三組の姿だとでもいうように、そこは酷く静かである。
仕方ない、となまえは来た道を振り返る。
都城王土がそこにいた。

「っ――――!?」

流石のなまえも、それには驚く。反射的に、一歩後ろへ下がる。
まさか。まさかこの王土が"影が薄い"わけもあるまいし、こんな近くにいて、気がつかないわけが。

「久しぶりだな」

それは、"いつ"の。

「う…ん。どうかしたの?」

先程の驚きの余韻が残っているなまえだったが、ゆっくりと落ち着きを取り戻し、王土へ問う。
王土は答えない。
何かを考えている様子も、言葉を選んでいる様子もない。
本当に一体どうしたのだろう、となまえはきちんと王土へ向き直った。

「誰か探してるのか?」

「あ、うん。日之影くんを」

「日之影?」

王土は相変わらず制服を着用していなかったが、なまえは"ここ"に、もっといえば自分の目の前に王土がいることに特に違和感を感じてはいなかった。
しかし、時間が経てば経つほど疑問が浮かぶ。
どうして教室に。というか、学校になど来ているのだろう。
あのときもそうだ。自分が死にかけたときも、時計塔が爆発したときも、十三組であるはずの都城王土は箱庭学園に存在していた。

「……………………」

そしてそれは、宗像形や高千穂仕種も同じである。

「宗像くんとか高千穂くんは?」

「ここには来てないな」

「軍規も?」

「さあな。奴とはあまり会わない」

宗像や高千穂は勿論、糸島軍規の姿もしばらく見ていないとなまえは空洞な教室を振り返った。
軍規のことだから授業を自分と一緒に受けるのではと思っていたが、そういうわけでもないらしい。
寂しいわけではないが、"授業を受けないのに学校へ来る理由がある"のかと、自然と眉間に皺が寄った。

「そろそろ時間だ。また会おう」

「え、時間ってどこに」

瞬間、放課後を知らせるチャイムが鳴り響く。
それに少しだけ肩を揺らしたなまえのことを振り返ることなく、王土はゆっくりと長い廊下を歩いて行った。

「……なんだったんだろう」

王土の広い背中をぼんやりと見送りながら、なまえはチャイムが鳴り終わるのを聞いていた。


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