頑張って話しかけようか、と席を立ちあがろうとした瞬間だった。
再び、さっきあの男の子が入ってきた扉が再び開かれたのだ。

「おやおや。登校義務が無い13組に誰か登校してるかと見に来たら2人だけか。うーん、もっと多いと思ったんだけど」

席についている男の子がどう思っているかなんてわからなかったが、現れた第三者を見て私が思ったことはただ1つ。

「(変態っぽい………)」

かなり酷い第一印象だが、それほどまでに変態なオーラが出ていたのだ。
腰ほどまで伸びた長い紫色の髪と、笑みが絶えることを知らないような口。
身長はまだ高校生になったばかりであまり大きくないのか(それとも先に席に座っている男の子を見てしまったからか)、私より少しだけ大きいくらいに見える。
プラス華奢な体格のため、後ろから見たら女の子に見えるかもしれない。
喋らなければ、の話だが。

「どうも。僕は黒神真黒。よろしくね」

扉の前からゆっくりと歩きながら、黒神真黒と名乗った男の子は、真ん中の席に座った男の子に手を差し出す。
男の子同士、友達になるのは早いのだろう。
次はあの扉から女の子が入ってきてくれないかなあ、とぼんやりと開きっぱなしの扉を見つめる。

「君も。よろしくね」

視界を黒い制服が遮った。
何事かと声かするほうへと顔を上げると、先ほど真ん中の席に座っていた男の子に挨拶していた長髪の男の子―――黒神くんが、私に微笑みかけている。
私は黒神くんの顔を唖然と見つめ、それから差し出された右手を見た。

「あ、よ、よろしくお願いします!」

まさかの黒神くんの行動に、私は声が裏返りつつも差し出された手を軽く握り、笑顔を向けた。
―――その瞬間。
ふわりと、身体全体を何かが包み込んだ。

「うんうん可愛いね。この身体の小ささといい、僕が抱きしめるのにピッタリな感じだ」

「――――――!!?!?」

今まで頭上にあった彼の声が自分の耳元から聞こえ、鳥肌が立つ。
次いで、自分が今どのような状況にあるのかを理解した。
―――抱きしめられているのだ。この、今よろしくと言ったばかりの男に。
必死にもがいて黒神くんを引き剥がそうとするが、黒神くんはびくともしない。
この細くて折れそうな腕や身体のどこに、そんな力があるというのだろう。

「…女子生徒にいきなり抱きつくのはどうかと思うが」

そういいながら、べりべりと私から黒神くんを引き剥がしてくれたのは、真ん中の席に座っていた男の子だった。
座っていても大きい彼は、やはりというべきか、立ち上がるとさらに大きく、その存在感を増幅させている。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」

どの口が言うか。

「………………」

私は席から立ち上がり、引き剥がしてくれた彼の後ろへ隠れる。
悪びれた様子もなく、長い髪を揺らしながら黒神くんは笑みを浮べていた。

「さっき彼にも名乗ったけど、僕の名前は黒神真黒。君達のクラスメイトだよ。君達の名前は?」

「日之影空洞だ」

「……名字なまえです」

「日之影くんになまえちゃんね。まあ13組は登校義務もないことだし、会うことは少ないかもしれないけどよろしくね」

日之影くんとは仲良くなれそうだな、と黒神くんを警戒する初日の朝だった。



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